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その時間は、戻せるか――『ムジュラの仮面』の3日間から、巻き戻せる時間を設計する

3日目の夜、空の月が迫ってくる。まだ行きたい場所も、確かめたい出来事もある。そこでオカリナで「時の歌」を奏で、最初の朝へ戻る。『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面』では、月が落下するまでの3日間を繰り返しながら冒険を進める。リメイク版『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面 3D』の電子説明書も、この仕組みをゲームの基本として説明している。[1]

戻った朝には、次の予定を立てられる。さっきは気づくのが遅かった出来事に、今度は先回りできるかもしれない。同じ3日間でも、プレイヤーが知っていることは増えている。

「天気と季節から時間をつくる」第7回、最終回は、閉じた時間を扱う。前回「その変化は、先に知らせるか」では、変化を知って備える判断を考えた。今回はさらに、過ぎた時間そのものを戻せる場合を考える。判断軸は 「その時間は戻せるか」 である。


繰り返す時間と、巻き戻す時間

第1回から第6回までの昼夜・天気・季節は、時間が前へ進むなかで変化し、巡ってくるものだった。夜が明ければ次の日になり、季節が一巡すれば次の年になる。同じ状態が訪れても、それは先へ進んだ時間の中にある。

今回扱うのは、プレイヤーが自分で一定の始点へ戻り、同じ期間を遊び直せる設計である。本稿では、このように繰り返し遊ぶ期間を「閉じた時間」、その一巡を「周回」と呼ぶ。

現実の時間は巻き戻らない。だからこそ、過ぎた時間にもう一度手を入れられることは、ゲームが選べる特別な設計になる。「次の機会を待つ」に加えて、「最初に戻り、知ったことを使って行動を変える」という選択が生まれるのである。

ここでは、ゲーム内の時間を巻き戻す仕組みに絞る。セーブ・ロードによるやり直し全般については、セーブを利用したやり直しの設計を扱う記事を参照してほしい。


1週間ではなく、3日間にした理由

戻って遊び直せる長さにする

任天堂の「社長が訊く『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面 3D』」第1章では、N64版でディレクターを務めた青沼英二氏が、もう一人のディレクターである小泉歓晃氏とのやり取りを振り返っている。『時のオカリナ』には時間で制御できるシステムがあり、小泉氏から次の提案があったという。[2]

その時間が流れるシステムを使えば、何度も繰り返して遊ぶゲームができるじゃないですか。

ただし、繰り返す期間は、初めから3日間だったわけではない。青沼氏は「でも最初は、1週間のつもりだったんです。」と話し、変更のきっかけをこう説明する。[2]

ところが、最初の日に戻ったときに「また1週間もやり直すのか・・・」という話になりまして、「じゃあ、ちょうどいいのは3日かな?」と。

さらに、住人の行動が毎日変わるため、1週間もあると、誰が何日目にどこで何をしたか覚えていられないとも述べている。そこで、1週間分として考えた要素を3日間に圧縮したのである。聞き手の岩田聡氏(当時の任天堂社長)は、密度の濃い内容を1週間分つくるには、1年では開発できなかっただろうとも指摘している。[2]

設計の観点から読むと、周期の長さには二つの負担がある。一つは、最初からやり直す負担。もう一つは、次の周回に使うために、出来事を覚えておく負担である。長くするほど遊べる量は増やせるが、戻る決心と、戻ったあとの予定づくりが重くなる。

3日間という長さは、あらゆるゲームに共通する正解ではない。この事例から持ち帰りたいのは、 周期を、覚えていられる量と、やり直せる負担から決める という見方である。期間を短くし、その中へ出来事を集めることで、同じ場所を何度も訪ねる意味も濃くできる。

戻るものと、持ち越すものを分ける

巻き戻しでは、時計に加えて、ゲームの状態も変わる。3D版の電子説明書によれば、最初の朝へ戻ると、一部のアイテムやルピーがなくなり、イベントやダンジョンのしかけも元へ戻る。一方で、時を越えられるアイテムやお面がある。[1]

時間切れの場合は扱いが異なる。同じ説明書は、3日が経ったときについて次のように説明している。[1]

月が落下して、最初の朝に戻ります。時を越えられるアイテムやお面の入手状態は、最後に「時の歌」を演奏したときの状態に戻ってしまいます。

自分で「時の歌」を奏でて戻れば持ち越せるものも、時間切れで戻されると、最後に奏でた時点まで巻き戻る。自分で戻るか、時間切れで戻されるかによって、失うものの重さが変わる設計である。

ここからは考察である。周回の前進には、ゲーム内に残るものと、プレイヤーの理解として残るものの両方がある。道具を持ち越せれば次の行動の幅が広がり、誰がいつ現れるかを覚えていれば、同じ時間を違う順番で使える。

成果をすべて失わせれば、同じ作業を繰り返す徒労になりやすい。反対に、出来事の達成状態も資源もすべて残せば、毎周回それらを積み上げるだけで済み、限られた期間に何をするかという緊張が薄れる場合がある。どの状態を戻し、何を次へ渡すかが、閉じた時間の中での進み方を決めるのである。

朝・昼・夜から次の日の朝へ進む時間と、3日目から「時の歌」で最初の朝へ戻る時間の比較。巻き戻した後も、持ち越すものとプレイヤーが知ったことは次の周回へ残る。


決まった時刻の出来事を、どう知らせるか

同じ期間を繰り返せると、出来事の時刻を知ることが、次の行動につながる。しかし、出来事の存在に気づかなければ、次の周回でも予定には入れられない。

「社長が訊く」第6章で青沼氏は、N64版の課題を次のように振り返る。[3]

しかも、イベントが起こる時間が決まってますので、そのときに、その場に行かないと、一生気づかないまま終わってしまっていたんです。

3D版のディレクターは、グレッゾの大岩幹治氏である。[4] 大岩氏は「そこで、ボンバーズたちがヒントを言ってくれるようにしました。」と説明する。ボンバーズは町の少年たちのグループであり、その一員の証となる団員手帳には、悩みを持つ人たちのスケジュールが書き込まれる。3D版では手帳の情報量や見やすさが改善され、イベントの発生時刻を知らせるアラームも加わった。[3]

ここからは考察である。出来事への手助けは、「存在を知らせる」「時刻を記録する」「間に合うよう呼びかける」に分けられる。ヒントで関心を向け、手帳で予定を確認できるようにし、アラームで思い出せるようにする。それぞれ、気づかない・覚えきれない・うっかり忘れるという違うつまずきを補う。

これは、第6回で扱った「予報」の一種として読める。知らせる対象は天気から人々の予定へ変わるが、先の変化を知って備える役割は同じである。時刻の決まった出来事なら、その時刻を知ることで、次の周回に間に合わせる計画を立てられる。

ただし、時刻を知らせても、そこへどう向かい、何をするかは残せる。案内する情報の範囲と、プレイヤーに考えてほしい部分を分けておくことが大切になる。


足りなさを残す

時間を戻せるゲームにも、間に合うかどうかの緊張はある。岩田氏は、3D版の調整をめぐって「理不尽さは取り除くけど、歯ごたえは取り除かない」と表現し、時間についても次のように話している。[3]

それに「3日だと足りない」ということで、ドキドキするのが、このゲームの醍醐味ですから、そこをあっさりにすると、たぶん、思い出に何も残らない、ただの淡泊なゲームになってしまうんですよね。

この方針を時間設計へ引きつけると、見逃しを減らすことと、制限時間をゆるめることは別の調整になる。出来事の存在も時刻もわからず逃してしまう状態には、情報を足せる。そのうえで、知っている予定をどう組み合わせるか、今回はどこまで挑むかという忙しさは残せる。

3D版のヒントや団員手帳は、時間が足りない緊張を残しながら、見つける機会を補う工夫と読める。戻せるからといって、いつでもすべて間に合う余裕を与える必要はない。 失敗から次の計画を立てられるか が、理不尽と歯ごたえを分ける点検の手がかりになる。


ゲームへの置き換え(考察)

ここからは、本稿の事例を企画へ置き換える考察である。たとえば、住人の予定を調べながら依頼をこなす、架空の町のゲームを考えてみる。

周期の長さを、覚えられる予定から決める

まず、住人の行動表を一巡分つくる。そのあと、プレイヤーが「誰が、いつ、どこで、何をするか」を覚えて、次の周回の予定に使えるかを見る。覚えきれないなら、期間を短くする、登場人物や行動の種類を絞る、記録で補うといった調整ができる。

短くしたときは、一度にすべてこなせるかに加えて、周回ごとに違う予定を選べるかも見る。内容を詰めすぎれば忙しいだけになり、空けすぎれば次の出来事を待つ時間が長くなる。

巻き戻したあとに、次の一歩を残す

企画書には、時間を戻した直前と直後の状態を並べて書く。たとえば、移動に使える道具や調べた情報は残し、その周回で集めた材料や引き受け中の依頼は戻す、といった案が考えられる。これは架空の設計例であり、『ムジュラの仮面』の仕様を示すものではない。

残す項目の役割は、次の挑戦を進めること。戻す項目の役割は、その周回でどう動くかをもう一度選ばせること。その区別が、プレイヤーにも見える形になっているかを確かめたい。

出来事を知る道具と、残す忙しさを決める

依頼の存在はうわさで知らせ、判明した時刻は手帳へ残し、行くと決めた予定には通知を付ける、と組み合わせられる。通知が必要なのか、予定表を見るだけで足りるのかは、プレイヤーに何を覚え、何を考えてほしいかによって変わる。

そのうえで、足りなさを残す場所を決める。すべての依頼を同じ周回で終えられる余裕をつくるのか、今回は誰を優先するか選ばせるのか。失敗したときに「次は移動の順番を変えよう」と考えられるなら、その制約は次の遊びにつながる。何が起きたかもわからないなら、まず情報の出し方を見直せる。


シリーズのまとめ――7つの問いを使い分ける

「天気と季節から時間をつくる」では、巡る変化から始めて、時間そのものを戻す設計までを扱ってきた。全7回を、扱った時間と判断軸で並べると次のようになる。各回の欄には、記事の正式タイトルへのリンクを置いた。

回 扱った時間 判断軸
第1回:その変化は、遊びの何を変えるか――昼夜と季節を、現実の速さで流すか、縮めて回すか 昼夜と季節の周期・速さ その変化は、遊びの何を変えるか
第2回:夜になると、何が増え、何が減るか――薄明と夜の住人から、昼と夜の遊びを分ける 昼・夕方・夜 夜になると、何が増え、何が減るか
第3回:その雨は、何段階で降るか――気象庁の「雨の強さと降り方」から、雨の効き目を決める 雨の強さが変わる時間 段階をいくつ作り、それぞれで何が変わるか
第4回:その風は、何を伝えるか――風・霧・雷に、向き・距離・規則を語らせる 風・霧・雷がある時間 その天気で、何を伝えるか
第5回:季節が変わると、何が戻り、何が去るか――四季の区切りと「去るもの」から、季節の遊びを決める 季節の巡りと区切り 季節が変わると、何が戻り、何が去るか
第6回:その変化は、先に知らせるか――天気予報の信頼度と「備える判断」から、ゲームの予報を設計する 変化が来るまでの時間 変化を先に知らせるか
第7回:その時間は、戻せるか――『ムジュラの仮面』の3日間から、巻き戻せる時間を設計する 始点へ巻き戻す閉じた時間 その時間は戻せるか

使い分けについての考察として、まず企画にある時間の要素を一つ選びたい。「夜の探索」なら、第1回の問いで夜が遊びに与える変化を決め、第2回で増えるもの・減るものを選ぶ。雨や風にも行動を変える役割を持たせるなら、第3回・第4回へ進む。季節の入れ替わりは第5回、先に知らせて準備させるなら第6回、同じ期間を遊び直させるなら第7回を当てる。

すべての問いを一度に使う必要はない。企画で迷っている箇所に合う問いから始め、答えを「プレイヤーが何を知り、何を選び、どう行動するか」まで書いてみる。時間や天気の設定が、遊びの判断へつながっているかを確かめられる。


企画書を見直すための点検表

3日目の夜から最初の朝へ戻ったとき、次は何をしようと思えるか。戻す状態と、次へ渡す成果や知識を組にして考える。最終回の判断軸は 「その時間は戻せるか」 である。

References

1. 任天堂『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面 3D』電子説明書 — 任天堂、公開日記載なし。第6項「ゲームの進めかた」を参照。巻き戻しと持ち越しの説明は3D版に基づく。

2. 任天堂「社長が訊く『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面 3D』1. 「1年でつくれ」」 — 任天堂、2015年2月13日。N64版の開発経緯、周期を1週間から3日間へ変更した理由。公開日は「社長が訊く」ニンテンドー3DS一覧の記載による。

3. 任天堂「社長が訊く『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面 3D』6. 「ボス戦は全部おかしい」」 — 任天堂、2015年2月13日。ボンバーズのヒント、団員手帳、理不尽さと歯ごたえ、3日間の緊張に関する発言を参照。

4. 任天堂「社長が訊く『ゼルダの伝説 ムジュラの仮面 3D』3. 「フタを開けたくなかった」」 — 任天堂、2015年2月13日。大岩幹治氏はグレッゾのディレクター、山村知弘氏は任天堂企画開発部でソフト開発の窓口を担当。佐野友美氏も同部で開発後半から窓口・調整を担当し、N64版を遊んだプレイヤーの立場から発言している。


この文書は、Perplexity、Claude、ChatGPT の3つのAIの支援を受けて著述されたものです。引用画像を除き、MIT License にて提供されています。