その風は、何を伝えるか――風・霧・雷に、向き・距離・規則を語らせる
同じ山道でも、天気が変われば足を止める理由が変わる。向かい風が強まると、進みにくくなり、風の弱まる場所を探す。霧に包まれると、先ほどまで見えていた分かれ道が消え、近くの道標を確かめる。雷鳴が響くと、危険が近づいたと感じ、装備と進路を見直す。これは架空のゲームの場面である。
風は進む向きと体にかかる強さを、霧は見通せる距離の限界を、雷は危険を判断する規則と予告を伝えられる。同じ道に別の判断を生むことで、進み続ける時間、立ち止まる時間、備える時間ができる。
「天気と季節から時間をつくる」第4回は、風・霧・雷を扱う。前回「その雨は、何段階で降るか」では、雨の強さの段階ごとに何を変えるかを考えた。今回の判断軸は 「その天気で、何を伝えるか」 である。
風は、向きと強さを伝える
体の動きにくさから、強さを読む
気象庁の「風の強さと吹き方」は、平均風速を m/s で示し、その風が人や建物などへ及ぼす影響を並べている。表の注2には「平均風速は10分間の平均、瞬間風速は3秒間の平均です。」とある。持続する風の強さと、短い時間の強さを分けて読むための前提である。[1]
「人への影響」の列に注目すると、強さを体の動きにくさとして捉えられる。以下は原表からの抜粋であり、影響の文言は原文のままである。[1]
| 気象庁の予報用語 | 平均風速(m/s) | 人への影響 |
|---|---|---|
| やや強い風 | 10以上15未満 | 風に向かって歩きにくくなる。傘がさせない。 |
| 強い風 | 15以上20未満 | 風に向かって歩けなくなり、転倒する人も出る。高所での作業はきわめて危険。 |
| 非常に強い風 | 20以上25未満、25以上30未満の行にまたがる記載 | 何かにつかまっていないと立っていられない。飛来物によって負傷するおそれがある。 |
企画に借りられるのは、歩きにくい、歩けない、つかまらないと立っていられない、という行動の変化である。たとえばゲーム独自の段階を「進みにくい」「進路を選ぶ」「その場で耐える」と名付け、移動速度、操作できる範囲、立ち止まる必要を変える。この段階名と境界はゲームのために決めるもので、気象庁の予報用語とは別物である。
向きも合わせて伝えると、強さが行動につながる。草や衣服がなびく向きと、キャラクターが押される向きが対応していれば、プレイヤーは進みにくい原因を読み取れる。「風が強い」と気づくところから、「この向きへ進むのが難しい」と判断するところへ進める。
風で、困難の続く時間を調整する
『風ノ旅ビト』の開発者ジェノヴァ・チェン氏によるGDC 2013講演を報じたファミ通.comの記事には、狙った「感情のカーブ」へ近づけるための調整が記されている。[2]
プレイヤーに困難な状況を与えるために風を強くしたり、歩きのスピードを遅くして山を上る時間を調整したり、シェルターを弱くしたり
同記事は、最後のチャプターが雪山であることも紹介している。この調整からは、風の強さを、困難を感じながら進む時間や感情の起伏に結びつける発想が読める。企画で向かい風を置くなら、「どれだけ遅くするか」とともに「その時間に何を感じてほしいか」を書いておくとよい。
自分で使う風、道を示す風
『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』の開発者インタビューでは、聞き手が次のように述べている。[3]
イカダを”コログのうちわ”で扇いで進むことができるのも、同様ですよね。物理的には絶対に進まないはずですが、プレイとしては違和感がありません。
この直前で、同作のディレクターである藤林秀麿氏は、ビタロックを使って丸太に乗って飛ぶ遊びについて「そういう”嘘”は必要だと話していたんです」と説明している。イカダについての引用は聞き手の発言だが、一連のやり取りは、現実の物理に厳密に合わせることより、遊びとして納得できる働きを選ぶ文脈にある。風を自分で起こし、進むために使える道具にした例として読める。[3]
『Ghost of Tsushima』の 導きの風(Guiding Wind) には、見せるための風が道案内の役目を得た経緯がある。PlayStation.BlogでJason Connell氏は、風と動きを取り入れる初期の美術目標を達成し、風が視覚的に印象的になったため、新しい場所を指し示せるか試したと説明している。[4] 詳しい誘導の設計は、草原・平原の地形設計とゲームのHUDデザインで扱っている。
霧は、見えない距離を伝える
「どこまで見えるか」を決める
視程とは、横方向にどこまで見通せるかを表す距離である。気象庁の用語集では「水平方向での見通せる距離。」と定義されている。霧ともやも、この距離を使って区別される。[5]
| 気象庁の用語 | 定義(原文) |
|---|---|
| 霧 | 微小な浮遊水滴により視程が1km未満の状態。 |
| 濃霧 | 視程が陸上でおよそ100m、海上で500m以下の霧。 |
| もや | 微小な浮遊水滴や湿った微粒子により視程が1km以上、10km未満となっている状態。 |
ゲームでも、「遠くの塔は見えるが入口はわからない」「次の道標だけ見える」「同行者の姿を見失いそうになる」と、見通しの段階を行動に結びつけられる。これらはゲーム独自の状態の例であり、公的な霧・濃霧・もやの区分とは分けて扱う。
霧の濃さを決めるときは、隠れるものと残るものを対にして考える。分かれ道を隠して慎重に歩いてほしいなら、近くの道標や足元の道筋など、確かめながら進める手がかりを残す。「何が見えないか」に加え、「何なら頼れるか」を決めるのである。
天気を描き、描画の限界も覆う
ゲームの霧には、風景の雰囲気を作る役目と、遠くを描ける限界を覆う役目がある。
MicrosoftのDirect3D 9の資料は、霧が現実感や雰囲気を作るとともに、遠くの形状が現れる際の不自然さを隠せると説明している。基本的な仕組みは、視点からの距離や奥行きに応じて、物体の色へ霧の色を混ぜることだ。遠くの物ほど霧の色へ近づき、見分けにくくなる。[6]
Windows Embedded CE 6.0の資料では、描画範囲の遠い側の境界に近い物体を霧で覆い、境界を越えて急に現れるのを隠す用途が説明されている。この境界が ファークリップ面 、つまり「それより遠くは描かない境目」である。[7]
遠景まで描く性能に余裕がなかった時代にも使われたこうした手法では、描画を終える境目を、霧の中へ風景が消える表現にできた。プレイヤーが受け取る「見通せない場所」という印象と、開発側の「ここまでしか描かない」という都合が、同じ霧に重なるのである。ハードウェアの仕様書で、フォグを加える条件によってポリゴン性能の数値が変わることは、ハードウェア「スペック戦争」の実態史でも触れている。
見通せないから、他者を頼る
前述の『風ノ旅ビト』の講演リポートには、開発初期のイメージボードの説明として、次の文がある。[2]
歩を進めると柱や雪、霧などで周囲がよく見えない状況となり、自分は黙って前の人についていく。それと同時に、自分は後ろの人を導いている。
これは初期構想の説明であり、製品版の仕様を述べたものではない。その構想からは、見通しを奪うことが、前を行く他者についていく理由になりうると読める。霧を通して伝えるものは、「先が見えない」に加えて「誰かを頼れる」でもありうる。他者との関係を生む設計については、『風ノ旅ビト』から『Sky 星を紡ぐ子どもたち』への非言語コミュニケーションも参照してほしい。
雷は、規則と予告を伝える
現実の危険と、ゲームの規則を分ける
気象庁の「雷から身を守るには」は、「近くに高いものがあると、これを通って落ちる傾向があります。」と説明し、開けた場所や山頂・尾根などでは人に落雷しやすくなることにも触れている。[8]
一方、『ブレス オブ ザ ワイルド』の公式「冒険の手引き」は、ゲーム内の規則を次のように説明する。[9]
雷雨のときに金属製の武器、盾、弓を身に着けていると、雷に打たれてしまいます。 木製の武器などに切り替えることで、自分に雷が落ちなくなります。
藤林氏は前述のインタビューで、金属に雷が落ちるようにしようと提案した際のやり取りを、次のように紹介している。[3]
「金属に雷が落ちるようにしよう」と提案したところ、スタッフに「知ってます? 実際の雷って金属に落ちないんですよ」としたり顔で言われたりして。
続けて藤林氏は、イカダの話も含め、「「そのほうがおもしろいでしょ。メルヘンだよ!」と。」と述べている。「実際の雷って金属に落ちないんですよ」は、藤林氏が紹介したスタッフの発言であり、現実の雷についての一般則として受け取るものではない。[3]
ここからは本稿の考察である。現実についての説明では、高いものを通って落ちる傾向が示される。ゲームでは、身に着けた金属という条件を選び、木製の装備へ切り替える対処を用意した。プレイヤーが読める規則と、自分で取れる対処を、現実の再現より優先した例として読むことができる。これはゲーム内の装備選択の話であり、現実の雷への安全対策とは別である。
危険が起きる前に、何を知らせるか
気象庁は「雷鳴が聞こえるなど雷雲が近づく様子があるときは、落雷が差し迫っています。」とも述べている。雷鳴は、危険がすでに迫っていることを知らせる手がかりになる。[8]
ゲームの予告を考える際にも、危険が起きる条件と、条件に気づく手がかりを組にできる。たとえば架空のゲームなら、雷雨に入ったことを音と画面で知らせ、危険な状態の装備を見分けられるようにし、変更する余地を用意する。これは本稿の設計案であり、『ブレス オブ ザ ワイルド』の具体的な前兆演出を説明したものではない。
予告に気づいてから対処するまでが、その天気の中で過ごす時間になる。気づいたときには操作を変える余地がないなら、予告の早さ、伝え方、対処に必要な操作のどこを変えるかを見直したい。
ゲームへの置き換え(考察)
ここまでの資料をもとに、企画で決める項目を整理する。以下のゲーム内の変化と対処は設計案であり、気象庁の区分をそのままゲームの数値にする提案ではない。
| 天気 | 伝えるもの | 現実の目安(気象庁の区分) | ゲームで変わるもの | プレイヤーが取れる対処 |
|---|---|---|---|---|
| 風 | 向きと強さ | 「やや強い風」は平均風速10以上15未満 m/s、「強い風」は15以上20未満 m/s。人への影響を行動の変化として読む。[1] | 向かい風での移動速度、進める方向、その場で耐える必要 | 進路を変える、風を利用する、風が弱まるのを待つ |
| 霧 | 見えない距離と、頼れる手がかり | 霧は視程1km未満、もやは1km以上、10km未満。濃霧の定義は前掲のとおり陸上と海上で異なる。[5] | 見える目印、先を見て判断できる範囲、同行者との距離の取り方 | 近くの道標を確かめる、歩みを緩める、同行者についていく |
| 雷 | 危険が生じる規則と予告 | 風速・視程のような数値区分ではなく、雷鳴や高いものとの関係を手がかりにする。[8] | 危険になる場所や装備の条件、予告から対処までの余地 | ゲームで示された規則に応じて、装備や進路を変える |
風で進むのに時間がかかり、霧で確かめる時間が生まれ、雷で備える時間が生まれる。天気を選ぶことは、プレイヤーにどんな時間を過ごしてもらうかを選ぶことでもある。
嵐として風と雷を同時に出すなら、対処どうしの関係も決めたい。風に耐えるために立ち止まらせる一方で、雷を避けるために移動させるなら、両方へ対処できる道や一時的な猶予を用意する。迷わせることが狙いでも、何に気づいて、どちらを先に選べばよいかが読める必要がある。

企画書を見直すための点検表
- その天気で伝えるものを、向き、強さ、見えない距離、規則、予告などの言葉で説明できるか。
- 気象庁の用語・数値と、ゲーム独自の段階名・設定値を分けて書いているか。
- 風の見える向きと、移動や道具に働く向きが対応しているか。
- 霧で隠れるものと、頼りにできる手がかりを対にして決めているか。
- 描画の境目を隠すための霧が、遊びに必要な目印まで消していないか。
- 雷の危険条件をプレイヤーが読み取れ、予告のあとに対処できるか。
- 天気が重なったとき、求める対処の順序や両立する方法が伝わるか。
- 進む、確かめる、備える、待つといった時間が、狙った体験につながっているか。
天気の名前から、その中で何を判断してほしいかへ目を移す。企画書を見直す判断軸は、 「その天気で、何を伝えるか」 である。
References
1. 気象庁「風の強さと吹き方」 — 気象庁、平成12年8月作成、平成29年9月一部改正。「人への影響」と注2を参照。結合セルの配置は同ページのPDFによる。
2. ファミ通.com「『風ノ旅ビト』誕生秘話――人の感情を動かすゲームが生まれるまで【GDC2013】」 — ファミ通.com、2013年3月31日。ジェノヴァ・チェン氏の講演リポート。初期イメージボードと感情のカーブの調整を参照。個人署名なし、ページの著者情報はファミ通.com。
3. 卵を守る雨宮・藤川Q「『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』祠の解法は3つ以上!? DLC&新作も聞く、アタリマエを超えた驚異の作品作りに迫る開発者インタビュー【後編】」 — ファミ通.com、2017年4月21日。コログのうちわに関する聞き手の発言、藤林秀麿氏による遊びのための物理表現と雷の説明を参照。
4. Justin Massongill「Ghost of Tsushima: Your questions answered」 — PlayStation.Blog、2020年5月29日。風による誘導が生まれた経緯についてのJason Connell氏の回答を参照。
5. 気象庁「氷、霜、霧、雷、日照時間」 — 気象庁「天気予報等で用いる用語」、公開日記載なし、2026年10月16日確認。「霧や視程に関する用語」を参照。
6. Microsoft「Fog (Direct3D 9)」 — Microsoft Learn、2021年1月6日更新。霧の用途と、距離・奥行きに応じて色を混ぜる仕組みを参照。
7. Microsoft「Fog (Windows Embedded CE 6.0)」 — Microsoft Learn、2012年1月5日更新。遠方のクリップ境界付近の物体を覆う用途を参照。
8. 気象庁「雷から身を守るには」 — 気象庁、公開日記載なし、2026年10月16日確認。ページ内に「雷から身を守るには ― 安全対策Q&A ― :日本大気電気学会 から引用」と明記。
9. 任天堂「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド:冒険の手引き」 — 任天堂、公開日記載なし、2026年10月16日確認。「雷が落ちる法則と防ぎかた」を参照。
この文書は、Perplexity、Claude、ChatGPT の3つのAIの支援を受けて著述されたものです。引用画像を除き、MIT License にて提供されています。