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負けた人に何を残すか――脱落の扱いを規則として書く

自分の駒が消えた後も、友人たちのゲームは続いている。まだ操作できるのか。見ているだけになるのか。戻れる見込みはあるのか。その答えによって、負けた後に過ごす時間は変わる。

勝利条件を決めるとき、勝者の決め方には目が向きやすい。その途中で参加する権利を失った人の扱いにも、設計判断がある。何もできなくなる瞬間も、別の役割を渡される瞬間も、遊びの感情が大きく動く場面だ。

「読める仕様書」シリーズの最終回、第6回では、脱落と、その前後に残る権限を読む。判断軸は一つである。

負けた人に何を残すかを、規則として書いているか。

ここで扱うのは、一つの遊びの進行中に起きる退場、部隊の喪失、参加の継続である。勝敗が不利になること、自分のユニットを失うこと、プレイヤー自身がゲームから退くことを区別しながら、公式文書がどこまで処理を言葉にしているかを確かめる。


第1章 脱落は、勝利条件の一部である

シリーズ第3回はモノポリーの破産規定を「終わり方」として読んだが、本稿では退場後の処理まで定める「書かれ方」に焦点を移す。

モノポリーは、物件を所有し、他のプレイヤーとの間で賃料などを支払うゲームだ。Hasbroが公開するParker Brothers版、©2004, 2007の公式ルールでは、支払える額を超える債務を負うと破産し、直ちにゲームから退く。最後に残った1人が勝つ。脱落は、その勝者を決める手続きに組み込まれている。[1]

その規定は、「破産したら退場」で終わらない。誰に支払えなくなったかによって、資産の行き先が分かれる。

破産の相手 退場に伴う処理
他のプレイヤー 価値あるものを債権者へ渡す。家・ホテルは銀行へ購入価格の半額で売却し、その代金を債権者へ渡す
他のプレイヤーで、抵当物件がある場合 抵当物件も債権者へ移る。新しい所有者は銀行へ10%の利息を直ちに支払う。抵当を後の手番で解除するなら、その際にも利息を支払う
銀行 全資産を銀行へ渡し、銀行は受け取った物件のうち建物を除くものを直ちに競売にかける

いずれも公式ルールの「BANKRUPTCY」に定められた処理である。[1]

退場した人の資産は、残った人の次の判断に関わる。誰かの所有になるのか、競売で獲得する機会になるのかで、その後の盤面が変わる。建物と抵当物件を分けて書くことで、資産の種類ごとの後始末も、残った参加者が実行できる。

ここから読み取れる姿勢は、 脱落を採用するなら、退場した後の後始末まで書く というものだ。退場者への処理と、残った人のゲームを続けるための処理が、一つの規定につながっている。


第2章 脱落しかけた人を、規則で引き留める

シリーズ第5回はウォーハンマー40,000の更新時の措置を「上書きされる側への配慮」として読んだが、本稿では「救済もまた条文で書かれている」という点に焦点を移す。

ここでいう継続の危機は、対戦に負けたことによる退場ではなく、規則の更新によって、保持してきた軍が登録上限に収まらなくなることである。

Crusadeは、軍を保持しながら遊びを続けるキャンペーンだ。軍の登録簿を Order of Battle 、その登録総量の上限を Supply Limit と呼ぶ。第10版期の2025年1月の『Munitorum Field Manual Version 2.0』は、ユニットのポイント値の更新によって、登録済みユニットの合計が上限を超えた場合の扱いを定めている。[2]

この場合、Supply Limitを登録済みユニットの新しい合計値まで引き上げてよい。そのために、通常の拡張に使うRequisitionという手続きや、Requisition pointsという資源を消費する必要もない。救済が適用される原因、引き上げられる範囲、不要になる負担が、同じ条文に書かれている。[2]

この措置が守るのは、 登録した軍を保持してキャンペーンを続けること だ。動かす対象は登録上限なので、返金や、以前と同じ編成を同じ条件で対戦に出せる保証まで、この条文から読み取ることはできない。これらを禁止する文言があるという意味ではなく、救済の対象として書かれている範囲がそこまでである。

「配慮する」という方針を、プレイヤー自身が適用できる条件にする。何を守り、何を守る対象に含めないのかを定めることで、救済は、その場の善意に頼らず使える規則になる。


第3章 部隊は脱落し、プレイヤーは残る

シリーズ第2回は次のウォーゲームの規則を「あらかじめ決めた手順で結果を出すrigid裁定の実物」として読んだが、本稿では「何が脱落するのかを分けて設計している」という点に焦点を移す。

複数の部隊を指揮するゲームでは、一部隊の喪失後も、プレイヤーは残った部隊を動かし、状況に応じて判断する。部隊の戦闘能力と、プレイヤーがゲームへ参加する権限は、別の対象として扱われる。

GMT Gamesの『Great Battles of the American Civil War』(以下GBACW)、2023年版シリーズルールの第13.0章には、部隊の結束を表す Cohesion Rating と、混乱した部隊を立て直す Rally がある。第17.0章の Fatigue は、疲労を扱う選択規則だ。損失、混乱、潰走、疲労を、それぞれの状態と処理に分けている。[3]

手番構造の第IV段、ターン終了時には、司令官の移動、失われた指揮官の交代や部隊の回復、旅団・師団の戦闘有効性の確認、ターン記録の更新が置かれている。部隊がどの状態で次へ進むかを、所定の段階で確かめる構造だ。[3]

『Bayonet & Musket Battle System』の2024年7月版ルールでは、第3.4項に Routed Unit Marker Movement Phase 、すなわち潰走した部隊のマーカーを動かす専用のフェイズがある。第13.1項は、このマーカーが抵抗の少ない経路を通って所定の退却端へ向かうと定め、第3.6項のクリーンアップフェイズで、段階を追って除去されると定める。戦える部隊としての役割を失った後にも、処理される対象として盤上に残る時間がある。[4]

この2種から読めるのは、部隊の状態を変える規則と、プレイヤーの進行を支える手順の分離である。個々の部隊を失うことが、そのままプレイヤーの退場手続きにはならない。

デジタルゲームの仕様でも、「ユニットが倒された」と「プレイヤーが操作を失った」を別々に書ける。倒された対象、失われる行動、引き続き操作できる対象を分けると、何を脱落と呼んでいるのかが明瞭になる。プレイヤーの権限を残す設計にも、失わせる設計にも、この区別は必要だ。


第4章 脱落後に残る行動を、公式文書から読む

デジタルゲームでも、キャラクターが倒された後に、プレイヤーが別の形で試合へ関わる仕組みがある。その規則を読むときは、状態の変化と、その後にできる行動を組にして確かめたい。

幽霊になった後にも、役割が残る

Among Usの開発元Innerslothは、2019年2月14日付更新記事「Fixes in Among Us 2019.2.13」で、幽霊になったクルーメイトにもタスクの役割が残り、幽霊になったインポスターも妨害によって貢献できると説明している。これは、当該更新時点で開発元が示した死亡後の行動である。[5]

ここでは、死亡した後も、元の役割に応じた働きかけが残る。「幽霊になる」という状態名に加えて、タスクを行う、妨害するという行動まで書くことで、残った仲間との関係が読み取れる。

盤面の外へ移っても、他のプレイヤーへ働きかける

コナミの『スーパーボンバーマンRオンライン』公式オンラインマニュアルでは、「スタンダード」のページに「みそボン」の項目がある。ミスしたプレイヤーはみそボンに変わり、外壁ブロックから爆弾を投げ入れて他のプレイヤーを攻撃できると説明されている。[6]

この記述では、ミスというきっかけ、みそボンという移行先、爆弾を投げ入れる場所、攻撃できる相手がつながっている。盤面内で生き残る立場を失った後に、どこから何をして関われるかを示す規則になっている。

二つの事例から、脱落後の参加を設計するときには、 移った先の状態と、そこに残す行動を一緒に書く という判断を持ち帰れる。自分のゲームで「観戦状態」や「復帰待ち状態」を設ける場合も、その名前に続けて、操作できる対象や他者へ働きかけられる範囲を書く必要がある。

必要な規則へ、読者がたどり着けるようにする

ここで参照した説明は、一方が更新記事、もう一方がモード別マニュアルに置かれている。Among Usの事例は2019年の更新時点、『スーパーボンバーマンRオンライン』の事例は「スタンダード」を対象とする。規則を読む側は、書かれた行動とともに、それが適用される時点やモードを確かめることになる。

自分のゲームで説明を用意するなら、試合中に倒された人が開くヘルプから、その状態でできることへたどり着けるようにしたい。モードによって扱いが違うなら対象を明示し、変更があったなら更新告知と、現在の規則を説明するヘルプを結び付ける。これは、脱落した本人と残った参加者が、同じ条件を確認するための文書の設計である。

シリーズ第1回の「書いた人が同席できない仕様書」という判断軸は、ここにも通じる。 何ができるかを書くことと、必要になった人がその説明を見つけられること の両方を、規則を届ける仕事に含めたい。


第5章 書くと、何が変わるか

脱落の規定を書くとき、決める項目は四つに整理できる。以下は特定の作品の仕様ではなく、開発文書に必要な判断を洗い出すための問いだ。

問い 文書に書く対象
いつ脱落するか 判定の条件と、脱落状態へ移る時点
脱落したあと何ができるか 操作、観戦、発言、他者への働きかけなど、残る権限と失う権限
復帰できるか、その条件は 復帰の可否、必要な条件、復帰先の状態
他の参加者からどう見えるか 状態の表示、姿や行動の見え方、発言が届く相手

脱落の規定で決める四つの問い。「いつ脱落するか」「脱落したあと何ができるか」「復帰できるか、その条件は」「他の参加者からどう見えるか」を同じ大きさの4枠に並べた概念図

たとえば、架空の協力ゲームで、戦闘不能になると観戦へ移り、味方の救助によって復帰できると決めたとする。「救助を待つ」だけでは、待っている人の権限は決まらない。観戦対象を切り替えられるか、敵の位置を伝えられるか、味方には救助可能な状態として表示されるかまで書くと、同じ場面を実装・検証するための条件になる。

復帰できると書く場合も、救助が始まれば確定するのか、完了前に試合が終わったらどうなるのかを決める必要がある。四つの問いは、それぞれ一語で埋める欄というより、状態が切り替わる場面をたどるための入口である。

文書にした後は、仕様を知らない人にも、戦闘不能になった瞬間から復帰または試合終了までを説明してもらえる。残る操作、他者への表示、復帰条件のどこで判断が止まるかが、追記すべき場所になる。

さらに、書かれた条件は運営中の変更を比べる基準になる。先ほどの架空例で、救助できる条件を狭めたり、観戦中に伝えられる情報を減らしたりするなら、プレイヤーが頼りにしていた行動の範囲が変わる。更新前後を示すことで、それを 約束の変更として告知すべき調整 として扱える。

ここでいう約束は、プレイヤーに示した遊び方の条件を指す。内部の仕様書で変更箇所を特定し、利用者向けの説明にも反映するところまでが実務になる。

シリーズ第5回の「変更する対象と、変更を届ける器を分ける」という判断軸へつなぐなら、脱落条件の変更と、それをゲーム内ヘルプや更新告知のどこで伝えるかを、それぞれ決めることになる。


第6章 シリーズを、脱落という一点で読み直す

このシリーズは、公開されたルールを、開発で使う仕様書の判断へ読み替えてきた。最後に、過去5回の判断軸を、脱落という一点からたどり直す。

第1回 自分が休んだ日にも、退場を判定できるか

『ボードゲームのルールブックは「書いた人が同席できない仕様書」である』の判断軸は、 この仕様書は、書いた自分が休んだ日に読まれても成立するか だった。

参加者が遊びから外れる場面で、作者を呼んで補足してもらうことはできない。負けた本人にも、残る参加者にも、同じ手続きを示す必要がある。脱落の規定こそ、その場の口頭説明に委ねず、条件と結果を自力でたどれる形にしたい部分だ。

第2回 脱落の判定を、人の裁量から手順へ移す

『卓上プロトタイプは「実装を待たずに動かせる仕様書」である』の判断軸は、 仕様が固まるとは、freeな裁定をrigidな裁定へ移していく作業である だった。

freeは人の専門的判断で結果を決めること、rigidはあらかじめ決めた規則や手順に従うことを指す。「もう続けられないだろう」と誰かが判断する状態から、どの条件で何を失うかが決まる状態へ移す。参加権を取り上げる判定は、担当者ごとの裁量に残しておきにくい。

第3回 その結果へ、どの選択で関われたか

『周回すごろくは、負けている人をどう卓に残すか』の判断軸は、 補正を隠すか見せるかではなく、補正の原因をプレイヤーの選択へ紐づけられるか だった。

脱落にも、同じ問いを向けられる。危険を引き受ける選択や、仲間を助ける選択が、その後に残る権限とどうつながるのか。結果に至る選択を説明できることは、負けた本人へ責任を押し付けることではなく、設計が用意した関与の機会を確かめることである。

第4回 公開した仕組みを、どこまで独占するか

『遊びの仕組みをどう守るか』の判断軸は、 著作権以外のどの手段を選ぶか。そして「守らない」も選択肢である だった。

米国著作権局の整理では、ゲームの遊び方そのものは著作権の保護対象に含まれず、規則を説明する文章や図などの表現は保護されうる。脱落の仕組みそのものを他社が使うことを、著作権だけで止めるという扱いにはならない。[7]

特許など別の手段による保護は、別途の検討対象になる。規則を読める形にすることと、どの対象を独占し、何を他者も使えるままにするかを決めることは、つながりながらも分けて判断する仕事だ。

第5回 変わった脱落条件を、どこで伝えるか

『数値は変わる、書籍は残る』の判断軸は、 変更する対象と、変更を届ける器を分ける だった。

脱落までの条件や復帰の可否が変わるとき、現在の規則を確かめる場所が必要になる。変更したことを知らせる告知と、次に遊ぶときに読むヘルプの両方に目を向ける。修正が実装へ入った後も、情報を届ける仕事は残る。

第6回 負けた人に残すものを、書いたか

最終回の判断軸は、 負けた人に何を残すかを、規則として書いているか である。

退場の条件、資産の行き先、継続のための救済、失われた部隊の処理、脱落後の行動。これらを書くと、勝敗の後や、勝者が決まるまでの間に、誰が何をできるのかが見える。負けた人の時間も、設計の対象として文書に現れる。

「読める仕様書」シリーズ全6回の短縮タイトルと判断軸を、作者不在の仕様書、卓上プロトタイプ、参加継続、仕組みの保護、変更の伝達、脱落後の権限の順に対応させた一覧図。各回の判断軸は直前の本文に記載


おわりに

負けた人に何を残すかを、規則として書いているか。

退場させるなら後始末まで、救済するなら対象と条件まで、行動を残すならその権限まで書く。そうして初めて、負けた人と残った人が、同じ規則から次の時間を理解できる。

本稿では、公開されたルールブック、更新記事、マニュアルを通じて、参加者に示される規則を読んできた。各事例には版や時点、モードという適用範囲があり、そこに書かれた条件から、開発文書に必要な判断を考えている。

シリーズで取り上げた卓上ゲームのルールブックには、参加者が自分たちで判断を進めるためのロジックが公開されていた。負けた人をどう扱うかを定めた条文は、その役割が特にはっきり表れる部分である。

自分のゲームで何を残すかという答えは、それぞれの遊びによって変わる。その答えを、参加する人が読んで確かめられる規則にする。全6回を通して、公開されたルールから持ち帰りたい仕事はそこにある。

References

1. MONOPOLY — 公式ルールブック|Parker Brothers/Hasbro — ©2004, 2007。「CLASSIC MONOPOLY RULES」のBANKRUPTCY、PDFの8ページ目。破産、資産処理、抵当物件移転時の利息、退場と勝利条件。

2. Munitorum Field Manual Version 2.0|Games Workshop — 第10版期、2025年1月。1ページ目「Crusade – Supply Limit Exceeded」。ポイント更新で登録上限を超えた場合の措置。現行版全般についての説明ではなく、この版の規定を参照。

3. Great Battles of the American Civil War — Series Rule Book, 2023 Edition|GMT Games — 第3.0章のターン終了段、第13.0章の結束と立て直し、第17.0章のFatigue(選択規則)。

4. Bayonet & Musket Battle System — Living Rules of Play|GMT Games — 2024年7月版。第3.4項の潰走部隊マーカー移動フェイズ、第13.1項の移動規定、第3.6項のクリーンアップフェイズにおける段階的な除去。

5. Fixes in Among Us 2019.2.13|Innersloth — 2019年2月14日。幽霊のクルーメイトのタスクと、幽霊のインポスターの妨害への言及。当該更新時点の説明として参照。

6. スーパーボンバーマンRオンライン — オンラインマニュアル「スタンダード」|コナミ — Nintendo Switch向け日本語マニュアルの「みそボン」。ミス後の状態と、外壁ブロックから爆弾を投げ入れる行動。

7. Games|米国著作権局 — 米国での著作権について、ゲームの遊び方と、ルールの文章・図の表現を区別する説明。


この文書は、Perplexity、Claude、OpenAI Codex の3つのAIの支援を受けて著述されたものです。引用画像を除き、MIT License にて提供されています。