ゼルダの「あたりまえ」は二度見直された――時のオカリナとブレス オブ ザ ワイルド
明日、2026年11月5日、Nintendo Switch 2版『ゼルダの伝説 時のオカリナ』が発売される。[1] 原作は1998年11月21日にNINTENDO64で発売された、シリーズ初の3D作品である。[2] この機会に振り返りたいのは、映像が立体になったとき、遊びの仕組みをどう組み直したかという判断だ。
もう一本、同じ重さで並べたいのが、2017年3月3日発売の『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(以下BotW)である。[3] 『時のオカリナ』が3Dで成り立たせた「ゼルダらしさ」は、やがてシリーズのあたりまえになった。BotWは、その進め方をもう一度見直した。
本稿では二作品を、 残す核を定め、その核を支える手段を組み直した作品 として読む。核とは、謎を解き、考えて試したことが突破口になる手応えである。以下では、開発者がどの場面を課題と捉え、何を変えたのかをたどったうえで、その共通点を考察する。
時のオカリナ――3Dでも「ゼルダ」を遊べるようにする
敵に剣を当てる前に、相手と向き合えるか
『時のオカリナ』の課題は、先行した『スーパーマリオ64』の開発中から見えていた。『時のオカリナ』で3Dゲームの環境構築やカメラ設計、リンクの制作などを担当した小泉歓晃氏は、『マリオ64』ではアクションのハードルが高くなったと感じ、前の敵を倒すにも「軸が合わないので、倒しにくかったりして・・・」と振り返っている。そこから『ゼルダ』では「アクション性を下げて、謎解きの比重を高めよう」という話になった。[4]
ここでいう軸のずれとは、画面では敵の前まで来たつもりでも、奥行き方向の位置や向きが合わず、攻撃が届かないような問題である。『時のオカリナ』でシナリオを担当した大澤徹氏も、『マリオ64』で看板を読もうとして、その周りを回ってしまう場面を挙げている。戦闘以前の「対象の正面に立つ」という行為にも、3Dならではの難しさがあった。[5]
一方で、実現したい遊びも具体的だった。1996年のE3に出展したチャンバラのデモ映像を制作した清水隆雄氏から、大澤氏は「チャンバラができる『ゼルダ』にしてくれ」と引き継いでいた。[4] 剣で相手と駆け引きする面白さを残しつつ、その手前にある位置合わせの負担をどう扱うか。この二つを同時に解く必要があった。
リンクの姿を外から見る三人称視点を採用すると、カメラと戦闘の設計が難しくなった。その解決策の一つが、 Z注目――対象に注意を向け、相手を捉えたまま行動できる仕組み である。Zボタンにはリンクの背後へ視点を戻す働きもあり、離れた人物との会話にも使えた。戦闘だけでなく、3D空間の中で「いま何に働きかけるのか」を定める仕組みだった。[5]
殺陣から、1対多を組み直す
Z注目を考えるうえで、京都の太秦映画村で見たショーが手がかりになった。ただし、そこで受け取ったものは開発者によって違う。
小泉氏が注目したのは、殺陣で悪役が一人ずつ主人公へかかっていく段取りだった。敵全員が一斉に攻めれば、戦いは混乱する。そこで注目した敵以外を待機させ、目の前の敵を倒してから次へ注目を移すようにした。1対多の戦闘を、1対1の繰り返しとして扱えるようにしたのである。森の神殿で、骸骨の剣士スタルフォス2体と戦う場面が、この仕組みの具体例として語られている。[5]
大澤氏が思い描いたのは「見えない鎖鎌」だった。ショーで鎖が張られた二人が向き合い、円を描くように動く姿から、リンクと敵の間にも見えないつながりを置く。前へ入力すれば距離を詰め、横へ入力すれば相手を中心に回り込む。こちらは、 向き合った相手との位置関係を保つ ための発想である。[5]
この二つは、注目を単なる照準合わせ以上のものにした。相手との距離や隙を読む余地をつくり、同時に相手にする敵の数を整える。本稿の見方では、操作と敵の振る舞いの両側から、チャンバラが成立する条件を用意したと整理できる。
対象を示す表示にも工夫があった。当初は逆三角形のマーカーだったが、小泉氏は別の表現を求めて妖精を提案した。光の球に羽根を付けた姿が生まれ、大澤氏によって「ナビィ」と名付けられた。注目対象を知らせる機能が、リンクに同行するキャラクターへとつながったのである。[6]
ジャンプの操作を減らし、謎に向き合う
移動でも、操作の前提を組み直した。開発初期にはボタンでジャンプしていたが、完成作では、段差や切れ目へ走ると自動的に跳ぶオートジャンプを採用した。[4]
その効果は、当時プレイヤーとして原作を遊び、のちに『時のオカリナ 3D』の音楽制作に参加した横田真人氏の言葉によく表れている。ボタンを押さずに跳べて、Z注目で攻撃が敵に当たることから、「これ、3Dなのに、2Dみたいに遊べる!」と感じたという。続けて横田氏は、ダンジョンの謎が一つずつ作り込まれ、自分だけが解けたように思えたとも語っている。[7]
ここから読み取れるのは、操作を覚える負担を軽くすることで、周囲を観察し、仕掛けの意味を考える時間を支えたという関係だ。3Dの広がりを使いながら、謎に気づいて解く手応えへ到達しやすくする。そのために、ジャンプや対象との向き合い方を変えたと考えられる。
任天堂の岩田聡氏が、同作で「ゼルダらしさ」が確立したという印象を述べると、当時ダンジョン設計を担当した青沼英二氏は同意し、その後の作品を作る大変さに言及している。[8] 3D化のための試行錯誤は、後続作が受け継ぐ基準にもなったのである。
ブレス オブ ザ ワイルド――進め方と解き方を選び直す
壁を、道の囲いから行き先の選択肢へ
BotWのディレクター、藤林秀麿氏がGDC 2017で語った出発点は、「アタリマエの見直し」だった。目標は、どこへ行き、何をするかをプレイヤー自身が考えるゲームである。従来の、決まった手順を踏まないとイベントが進まないことや、作り手の都合で越えられない壁があることが、その目標に照らして問い直された。[9]
壁登りは、その判断をよく示している。通行できないことを知らせる壁を登れるようにすると、壁はルートの一つになる。さらに高い場所から好きな方向へ飛んでいける滑空を組み合わせることで、登る場所を選ぶことが、その先の行き先を選ぶことにもつながった。[9]
序盤の舞台は「はじまりの台地」である。任天堂の公式紹介は、その外に広がる冒険に決まった道筋がないことを説明している。同ページには、早い段階から最終目標のガノンへ挑めることに驚いたプレイヤーの声も掲載されている。[3] どこまで準備し、どの体験を経て最終目標へ向かうかにも、自分の判断が入る。
冒険中には、内部を探索して仕掛けを解く巨大な「動くダンジョン」である神獣や、短い試練に挑む施設である祠がある。神獣は内部構造を把握する謎解きとして調整され、祠では複数の解き方を用意する方針が採られた。[10] 大きな目的と、小さく試せる課題が、自由に進む冒険の中に置かれている。
道具を増やすより、同じ道具で試せることを増やす
謎解きの主要な能力も4種類へ絞られた。藤林氏によれば、候補から壁登りなどゲームの核を邪魔するものを削っていった結果である。水面に氷柱を作るアイスメーカーは最後に決まった能力で、大地の次に広い水を遊びに使うために加わった。[10]
道具の選別は、解法の扱いと結びついている。BotWでプロデューサーを務めた青沼氏は、従来のダンジョンでは答えを一つだけ用意して作っていたため、別の方法で解けてしまうと制作側として非常に困ったと振り返る。一方、藤林氏はダンジョンや祠を作るプランナーに「解法は絶対に3つ作ってね」と依頼し、すぐに3つ挙がらない案は没にしたという。[10]
これは、各祠に必ず3つの正解があるという攻略上の保証ではない。同じインタビューでも藤林氏は、全祠について正確に答えることはできないとし、制作方針として説明している。[10] 大事なのは、プレイヤーが別の方法を試す余地を、案の採否を決める段階から求めていたことだ。
この方針を制作全体へ広げたのが、「足し算」から「掛け算」への転換である。一つのパズルのためだけに仕掛けを作り続ければ、その数だけ制作が増える。そこで、プレイヤーの行動、地形、物体が共通のルールで影響し合うようにし、組み合わせから遊びを生むことを目指した。テクニカルディレクターの堂田卓宏氏は、掛け算の遊びが「シチュエーションとゴールのあいだに潜んでいる」と説明している。[9]
状況と到達したい結果があり、その間をどう埋めるかは自分で試せる。本稿の見方では、制作者が解答までの一本の道を磨くことから、試行錯誤が成立する関係を整えることへ、設計の重点が移ったといえる。共通ルールの安定性を仕様でどう支えるかは、物理シミュレーションと仕様書の記事で別に扱っている。
草のハートを変え、向かいたくなる場所をつくる
日常的な回復にも見直しが及んだ。任天堂の紹介には「草を刈っても「ハート」は出現しません」とある。体力を回復するため、動物を狩り、きのこや木の実を採集する。[11] 周囲の自然を、生き延びるために観察する対象として扱う仕組みだ。
行き先を選べるゲームには、選びたくなる理由も必要になる。CEDEC 2017で藤林氏とフィールド設計を担当した米津真氏が紹介した初期テストでは、塔だけを頼りに進むと一本道のように感じ、街道を外れるとイベントに出会いにくいという問題があった。そこで使われたのが、 「引力」 という考え方である。藤林氏の定義は、「プレイヤーにとってお得であるがゆえに,そこに向かいたくなってしまう力」だ。[12]
周辺情報を得られる塔、挑戦の場となる祠、何かありそうな目立つ地形を見せ、寄り道の動機をつくる。誘導は、自分から目的地を選べる形へ組み直された。[12] 三角形の法則などの地形設計は、既存の眺望と遮蔽の回、山の回、川の回で掘り下げている。
では、これだけ変えて何を残したのか。発売前の4Gamerインタビューで、藤林氏は謎解きと、詰まっても「少し考えて試してみると何とかなったり」する遊び味を挙げている。[13] 移動、道具、回復、誘導を変える判断の先に、考えて試す楽しさが置かれていたのである。
二作品を並べる――残す核から、変える手段を選ぶ
ここまでの開発者の説明を、同じ判断軸で整理すると次のようになる。表の「残した核」は、発言を踏まえた本稿の要約である。
| 判断軸 | 時のオカリナ | ブレス オブ ザ ワイルド |
|---|---|---|
| 見直した前提 | 3D空間で相手と向き合う位置合わせを、プレイヤーの操作に委ねること。[5] | 謎解きの答えを一つに定めること。[10] |
| 見直しの動機(前作・従来作で見えた課題) | 『マリオ64』で、正面の敵と軸が合わず倒しにくい場面があった。[4] | 従来の進行手順が、自分で行き先を選ぶ目標の障害になった。[9] |
| 導入した仕組み | Z注目で、相手との位置関係を保つ。[5] | 共通ルールの組み合わせで解法を生む。[9] |
| 残した核 | 謎に気づき、自分で解けたと感じる手応え。[7] | 考えて試すことが突破口になる遊び味。[13] |

図の左はZ注目による戦闘の整理、右は共通ルールによる解法の組み合わせを示す。[5] [9]
本稿の考察として、時のオカリナは 新しい次元で、従来の遊びを壊さないための見直し といえる。奥行きが加わったことで生じる操作の難しさを整え、謎解きや剣の駆け引きに向かえるようにした。
BotWは、 確立した遊びの手段を組み直す見直し といえる。制作者が用意した順路や解法をたどることから、自分で行き先と方法を選ぶことへ重心を移した。オープンワールドの歴史的な位置付けは別記事に譲り、ここでは判断の筋道に注目したい。
二つは方向が逆に見える。時のオカリナは相手との関係を固定して遊びやすくし、BotWは移動や解法の選択肢を広げた。それでも、残す核を言葉にし、そのために手段を選び直すという共通の姿勢を読み取れる。時のオカリナでは謎解きの比重を高める方針が、BotWでは考えて試す遊び味が、変更の理由を支えている。[4] [13]
プランナーが持ち帰れる三つのこと
第一に、課題を場面で特定する。「3Dは難しい」よりも、「前の敵に攻撃しようとすると軸が合わない」「看板を読もうとして周囲を回る」のほうが、何を助ければよいか分かる。「自由度を上げたい」も、「一つの正解以外をふさいでいる」と捉え直せば、案の採否や検証に使える問いになる。
第二に、あたりまえを一つずつ疑う前に、何を残すかを決める。操作を簡単にする場合も、選択肢を増やす場合も、残したい体験が判断基準になる。ジャンプ、壁、道具、回復と項目を分けて見直しても、同じ核へ戻って評価できれば、変更の方向がそろう。
第三に、制約を足すときは、その制約が守る遊びを説明する。敵を待たせるのは、相手の動きや隙を読む1対1の手応えを守るためだと整理できる。BotWでも、主要な能力の候補を削る判断は、壁登りなどゲームの核を守ることと結びついていた。[5] [10] 制約が何を可能にするのかまで書ければ、変更すべき条件と残すべき条件を話し合いやすくなる。
「ゼルダらしさ」を支える仕組みは、時代と目標によって変わった。その変化を企画へ持ち帰るなら、まず書き出したいのは、プレイヤーに残したい一場面である。そこから、その場面を成立させるために、どのあたりまえを組み直すかを考えられる。
References
1. 任天堂「ゼルダの伝説 時のオカリナ|Nintendo Switch 2」 — 任天堂、2026年11月4日確認。発売日は2026年11月5日。
2. 任天堂「VC ゼルダの伝説 時のオカリナ」 — 任天堂、2026年11月4日確認。原作の発売日、2Dから3Dへの移行を参照。
3. 任天堂「これからはじめる『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』」 — 任天堂、2026年11月4日確認。「駆ける。」と商品情報を参照。ガノンへの早期挑戦については、同ページ掲載のプレイヤーの声を参照した。
4. 任天堂・岩田聡「社長が訊く『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』オリジナルスタッフ 篇 その1:2. チャンバラができる『ゼルダ』に」 — 任天堂、2011年。小泉歓晃氏、大澤徹氏らの発言を参照。
5. 任天堂・岩田聡「社長が訊く『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』オリジナルスタッフ 篇 その1:3. 『太秦(うずまさ)映画村に行こう』」 — 任天堂、2011年。Z注目の機能、殺陣、見えない鎖鎌、スタルフォス戦を参照。
6. 任天堂・岩田聡「社長が訊く『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』オリジナルスタッフ 篇 その1:4. 『ナビィ』という名前が付けられて」 — 任天堂、2011年。注目対象のマーカーから妖精への変更を参照。
7. 任天堂・岩田聡「社長が訊く『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』サウンド 篇:4. ニンテンドー3DSでオーケストラサウンドを」 — 任天堂、2011年。横田真人氏の原作プレイ時の体験を参照。
8. 任天堂・岩田聡「社長が訊く『ゼルダの伝説 時のオカリナ 3D』オリジナルスタッフ 篇 その1:7. 『これがゼルダ』」 — 任天堂、2011年。「ゼルダらしさ」についての岩田氏と青沼英二氏の対話を参照。
9. 古屋陽一「『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』はいかにして至極のタイトルになり得たか “掛け算”の方法論など開発陣がノウハウを語る【GDC 2017】」 — ファミ通.com、2017年3月2日。藤林秀麿氏・堂田卓宏氏らの講演の取材記録。壁登り、滑空、パズル制作と共通ルールの説明を参照。
10. 卵を守る雨宮、藤川Q「『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』祠の解法は3つ以上!? DLC&新作も聞く、アタリマエを超えた驚異の作品作りに迫る開発者インタビュー【後編】」 — ファミ通.com、2017年4月21日。藤林秀麿氏、青沼英二氏らへのインタビュー。複数解法の制作方針、主要な4能力、アイスメーカー、神獣を参照。
11. 任天堂「続報!『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』が発表されました」 — 任天堂トピックス、2016年6月15日。「生きぬくための狩猟・採集」を参照。
12. 西川善司「[CEDEC 2017]『ゼルダの伝説BotW』の完璧なゲーム世界は,任天堂の開発スタイルが変わったからこそ生まれた」 — 4Gamer.net、2017年9月2日。藤林秀麿氏・米津真氏の講演の取材記録。「引力」の定義と初期テストを参照。
13. TeT「【Nintendo Switch 5週連続インタビュー(3)】『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』編。“当たり前”を見直して,複数の解法をプレイヤーが試行錯誤できる作品に」 — 4Gamer.net、2017年2月18日。藤林秀麿氏へのインタビュー。見直しの後に残した謎解きと遊び味を参照。
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