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その地形は、誰に何を貸すか――『孫子』の高所と難地から、地形の有利と代償を設計する

高い場所に立つと有利になる。タクティクスRPGを遊んだことがあれば、高台に弓使いを置き、近づく敵を狙う場面を思い浮かべやすいだろう。

その高台へ、敵が先に着いたらどうするか。登る間に攻撃を受けるなら、それでも取りに行くか。高台から動かずに勝てるなら、ほかの場所へ進む理由はあるだろうか。

有利な場所を置くと、その場所をめぐる判断を作れる。ただし、有利の強さや取り方によっては、全員が同じ場所へ向かい、同じ戦い方を選ぶことにもなる。地形の効果と、その効果を使う条件を一緒に考えたい。

第1回では、プレイヤーに任せる判断の階層を考えた。第2回では、一つの戦闘の中で「どこに立ち、どの経路で動くか」を取り上げる。判断軸は、次の問いである。

その地形は、誰に何を貸し、何を払わせるか。


地形は「助け」である――『孫子』計篇・地形篇

『孫子』は、中国古代の兵法書である。コトバンク所収の『日本大百科全書(ニッポニカ)』で、篠田雅雄は、在来の『孫子』が「計」「作戦」「謀攻」「形」「勢」「虚実」「軍争」「九変」「行軍」「地形」「九地」「火攻」「用間」の13編からなると説明している。1972年には、中国・山東省の銀雀山の漢墓から、『孫子』の竹簡も出土した。[1]

計篇には、地を測る観点が短く並ぶ。[2]

地者,高下、遠近、險易、廣狹、死生也。

大意は、地とは高低、遠近、険しさと進みやすさ、広さと狭さ、生死に関わる条件である、というものだ。高いか低いかだけでなく、そこへ行きやすいか、動く余地があるかまで含めて土地を見る。

地形篇には、次の一文がある。[2]

夫地形者,兵之助也。

大意は、地形は軍の助けである、ということだ。続く文では、敵を見積もって勝ちを制し、険しさや遠近を計ることを、すぐれた将の務めとしている。[2] 土地の特徴は、そこで戦う者や相手との関係の中で働く。

この「助け」という捉え方を、ゲームの地形へ持ち帰ってみよう。高台はユニットの代わりに勝つのではなく、そのユニットができることを広げたり、受ける危険を減らしたりする。その助けが戦力差をどちらへ傾けるかを見るのである。

設計では、これを三つのつまみに分けられる。

同じ高台でも、この三つの組み合わせによって、取り合う場所にも、迂回する場所にもなる。


高所は、射程と守りを貸す

『孫子』行軍篇は、高所について次のように述べる。[2]

凡軍好高而惡下,貴陽而賤陰

大意は、軍は高い場所を好み、低い場所を嫌い、日当たりを重んじて日陰を避ける、ということだ。同じ篇の「視生處高,戰隆無登」は、日当たりのよい高所に陣取り、高所の敵へ登って戦わない、という趣旨である。軍争篇にも「高陵勿向,背丘勿逆」とあり、高い丘にいる敵へ攻め向かわず、丘を背にした敵を迎え撃たないよう説いている。[2]

ゲームでは、その高所の助けを具体的なルールとして実装できる。

任天堂のWiiバーチャルコンソール版『タクティクスオウガ』紹介ページには、次の説明がある。[3]

敵よりも高い位置にいる場合、射程範囲が広くなったり、敵からの攻撃が当たりにくくなったりします。

同ページでは、状況によって敵を1マス後退させられることがあり、高い場所から低い場所へ落とせればダメージを与えられるとも説明している。[3] 高さは、立っている場所の効果に加え、相手をどこへ動かすかにも関わる。

考察:遠くへ届くことと、当たりにくいことを分ける

高さが貸すものを「射程」と「守り」に分けると、企画書に書くべき違いが見えてくる。

射程を貸す高台なら、そこへ移動することで新しい相手を狙える。プレイヤーは「誰へ届くようになるか」を考える。一方、攻撃の当たりにくさを貸す高台なら、危険な相手の攻撃を引き受ける場所にもなる。「誰をそこへ置けば、耐えやすいか」が問いになる。

両方を貸せば、攻めにも守りにも使いやすくなる。そのぶん、ほかの場所へ動く理由が薄くなる可能性もある。高台を強くしたいときは、射程と守りのどちらを増やすのかを決めたい。両方を一度に増やすと、なぜ戦い方が変わったのかも見えにくくなる。

また、落下のように高さの境目で生まれる効果があれば、高台の中央と端でも価値が変わる。マップ上の「高いマス」を一括りにするより、そこで選べる行動まで書き出すほうが、地形の役割を捉えやすい。


高所は、先に取った者のもの

『孫子』地形篇は、地形を通・掛・支・隘・險・遠の六つに分ける。そのうち、険しい地形を指す「險形」については、こう述べている。[2]

險形者,我先居之,必居高陽以待敵;若敵先居之,引而去之,勿從也。

大意は、自軍が先に占めたなら高く日当たりのよい場所で敵を待ち、敵が先に占めていたなら退いて追わない、というものだ。同じ土地でも、先に立つ側と、後から近づく側では勧められる行動が変わる。

九地篇の「爭地」も、占める側に注目している。「我得則利,彼得亦利者,為爭地」は、自軍が取っても敵軍が取っても有利になる土地を爭地と呼ぶ、という趣旨である。そして「爭地則無攻」、つまり爭地では攻めかからない、と述べている。[2] 敵に先に占められた爭地へは無理に攻めかからない、という読み方ができる一文である。

ゲームで有利な土地を誰が使えるかは、戦闘開始前から決まり始める。

『ファイアーエムブレム エンゲージ』(以下、FEエンゲージ)の公式Twitter情報を紹介したファミ通.comの記事では、出撃準備中に味方の配置を入れ替えられ、地形情報と敵の能力も確認できると説明されている。[4] どの味方を、どの地形へ近づけて出撃させるかを考えられるわけだ。

また、『ファイナルファンタジータクティクス - イヴァリース クロニクルズ』(以下、FFT)のCo.ディレクター、横山文子氏は、電撃オンラインとファミ通ドットコムの合同インタビューで、高低差のあるマップだからこそ「“高台に陣取って弓で狙う”といった攻略を楽しむことができます」と述べている。[5]

考察:開始配置は、有利を渡す順番でもある

高台の効果が同じでも、登り口の近くにいる味方と、遠くにいる味方では、その効果を使い始めるまでの手間が違う。先に行動できる敵が登り口を押さえれば、近いだけでは先に取れない。

つまり、有利への「近さ」と「行動順」が、有利の取りやすさを変える。開始配置は、戦闘開始時の見た目に加え、誰へ最初の機会を渡すかの設計でもある。

たとえば、高台の射程が強すぎるように感じたとき、効果を弱める前に、いつ、誰がそこへ着いているかを見たい。毎回同じ側が先に取れているなら、問題は効果の大きさより、取りやすさにあるかもしれない。行動順の仕組みは第7回で扱うとして、今回は「地形を使い始める時点」までを配置と一緒に点検しておこう。


有利には、代償を付ける――そして強すぎた弓

『孫子』九地篇には、進みにくい土地を指す「圮地」がある。[2]

山林、險阻、沮澤,凡難行之道者,為圮地

大意は、山林、険しい場所、湿地など、およそ進みにくい道を圮地とする、ということだ。そして「圮地則行」と述べ、とどまらず進むよう説いている。土地を見るときには、そこで得るものに加えて、通り抜ける難しさも勘定に入る。

物陰にも両面がある。行軍篇には、次の記述がある。[2]

軍旁有險阻、潢井、葭葦、林木、蘙薈者,必謹覆索之,此伏奸之所處也。

大意は、軍の周囲に険しい場所や水のたまる窪地、葦、林木、草木の茂りがあれば、伏兵が潜む場所なので慎重に繰り返し調べよ、というものだ。林や茂みは、自分が身を隠す助けにもなれば、相手の姿を隠す場所にもなる。

ゲームで有利と代償を一文に並べた例が、FEエンゲージの茂みである。先ほどのファミ通.comの記事は、次のように説明している。[4]

例えば茂みは、敵の攻撃が当たりにくくなるが、進入するには通常よりも多くの移動力が必要。

守りを得る代わりに、移動力を払う。安全そうな場所へ入ることと、先へ進むことの間に選択が生まれる。

強化した弓が、編成の選択まで奪った

有利を利用するユニット側の調整も、戦い方全体へ響く。FFTでディレクターを務める前廣和豊氏は、使い勝手の悪かったアビリティの調整について語る中で、開発中に起きた問題を挙げている。[5]

開発段階では弓のチャージを強化しすぎてしまい、敵陣に弓使いが多いと絶対に勝てない、という事態も発生しました

さらに、次のように述べている。[5]

味方も弓使いさえいればいいという状態だったので、再度見直してそれぞれのチャージごとにベストな時間にしています

弓の使い勝手をよくする調整が、敵側では勝ちにくさを極端にし、味方側ではほかの編成を選ぶ理由を失わせた。そのため、チャージごとの時間を再調整したのである。[5]

考察:地形の強さは、それを使う職の強さと重なる

高台で弓を使う攻略と、弓のチャージの調整を重ねて考えると、地形とユニットを組み合わせて試す必要が見えてくる。

高台の助けがほどよくても、そこで働く弓使いが強すぎれば、「高台へ弓使いを集める」がほかの方法を押しのけうる。逆に、弓使い単体の性能がほどよくても、射程と守りを同時に大きく貸す高台では、強さが過剰になるかもしれない。

ここでの結びつけは、地形設計への考察である。前廣氏の発言はチャージの調整についてのものであり、高低差を弓の問題の原因として挙げてはいない。

プランナーが持ち帰りたいのは、 有利な場所を使う方法が、一つに固まっていないか という問いだ。高台の効果、そこへ着くまでの移動、攻撃の発動までの時間を組み合わせたとき、ほかの職や経路にも役割が残るだろうか。

代償の調整では、何を強くしたのかと対応させて考えるとよい。射程が長すぎるなら届く範囲を、先に取れすぎるなら開始位置や経路を、攻撃を繰り返しやすすぎるなら発動までの時間を検討する。地形を使う楽しさを残しながら、選ぶ余地を取り戻すのである。


見えにくさという代償――FFTの俯瞰視点の判断

地形の負担は、移動や攻撃のルールに限られない。立体的なマップには、位置関係を読み取る負担もある。

FFTのインタビューで横山氏は、「たしかに高低差のあるマップでは敵味方の位置関係を確認しにくい場面もある」と述べている。そのうえで、ボタンを押したときだけ俯瞰視点へ切り替わる仕様を説明し、次のように語る。[5]

本作でも基本はオリジナル版と同じように遊んでもらいたくて、あえて常時俯瞰視点でプレイできるようにはしていません

考察:高さを見る画面と、位置を確かめる画面

高さを立体で見せれば、どこが高台で、どこへ登ろうとしているかをつかみやすい。一方、手前の地形やユニットが奥を隠すと、誰と誰が隣り合っているかを読み取りにくくなる。

地形が作る有利を理解することと、その場の位置関係を確かめることは、同じ見せ方で両立するとは限らない。FFTの切り替えは、立体の見た目を保ちながら、必要なときに位置を確認する手段を用意した例として読める。

この意味で、カメラやUIも地形設計の一部になる。高台を置いたら、攻撃が届くマスや隠れたユニットを、プレイヤーがどう確かめるかまで考えたい。見えにくさは点検すべき負担であり、必ず意図的に残すべき代償というわけではない。判断材料を探す手間が大きすぎれば、地形を使う面白さにたどり着きにくくなる。

「見晴らし」と「隠れ場所」を探索の流れから考える話は、『地形は遊びに何をさせるか』で扱っている。あちらはオープンワールドで次の行き先を見つける探索の話であり、今回は戦闘中に有利を得て、相手との位置関係を読む話である。


ゲームへの置き換え――ここからは設計上の考察

地形を調整するときは、三つのつまみを別々に動かせるようにしておきたい。

つまみ 決めること 企画書に書く内容の例
有利の大きさ 何を貸すか 射程を広げるか、攻撃を当たりにくくするか、両方か
有利の取りやすさ 誰が先に取れるか 開始配置、行動順、経路、進入に必要な移動力
有利の代償 何を払わせるか 移動力、ほかの場所へ向かう機会、位置を読み取る負担、敵も物陰を使える危険

移動コストは、複数のつまみに関わる。進入に多くの移動力が要ることは、その地形を使う代償である。同時に、誰が先に着けるかを変える条件でもある。項目を分ける目的は、効果のつながりを追えるようにすることだ。

架空の丘を、三つの方向から調整する

以下は、架空のタクティクスRPGの設計例である。マップ中央に丘があり、その頂上では弓の射程が広がる。左右には茂みを通る道があり、勝利条件は丘の向こうの門へ到達することとする。

試遊すると、毎回、味方の弓使いが頂上へ登り、敵を倒しきってから門へ進む戦い方になった。ここでは、すぐに丘の効果を弱める前に、何が選択を固めたのかを見ていく。

有利の大きさ を変えるなら、頂上から届く範囲を狭める。丘からすべての道を狙えなくなれば、弓使いをどちらへ向けて配置するかや、届かない敵に誰を当てるかを考える余地ができる。

取りやすさ を変えるなら、開始配置や登り口までの経路を見直す。味方だけが簡単に先着していたなら、敵も競争に加われる距離へ変える方法がある。ただし、必ず敵が先着する配置へ変えれば、今度は毎回同じ攻め方を要求しかねない。実際に登頂するまでの動きを見る必要がある。

代償 を変えるなら、丘へ登る経路に必要な移動力を増やす方法がある。丘を取れば攻撃しやすいが、門へ向かう味方への合流は遅れる。プレイヤーは、頂上へ置く人数と、先へ進める人数を分けて考えられる。

どれも別の解決案であり、全部を一度に入れる必要はない。まず一つを変えて、丘を使う選択と、茂みを通って門へ進む選択が、どんな状況で選ばれるかを比べる。カメラを切り替えたときに敵や経路を読み取れるかも、同じ試遊で確かめたい。


企画書を見直すための点検表

地形の説明に「高台は有利」「茂みは安全」と書いたら、その先を次の問いで具体化できる。

地形の有利を強めることも、取りにくくすることも、それぞれ違う判断を生む。高台へ登る価値と、登らずに進む価値の両方が見えれば、立つ場所と進む経路を選ぶ意味が生まれる。

その地形は、誰に何を貸し、何を払わせるか。

この問いを、地形の効果だけでなく、配置、ユニット、見せ方までつなげて考えたい。

References

1. 「孫子」各辞典の解説 — コトバンク、2015年12月14日(参照した解説の日付)。『日本大百科全書(ニッポニカ)』、篠田雅雄の解説を参照。13編の構成と銀雀山漢墓の竹簡出土について。2026年10月17日閲覧。

2. 孫武『孫子兵法』 — 維基文庫、掲載日記載なし。通行本の原文。計篇・軍争篇・行軍篇・地形篇・九地篇を参照。編名の日本語表記は文献1に合わせた。本文中の大意は本稿による。2026年10月17日閲覧。

3. 任天堂「VC タクティクスオウガ」 — 任天堂、掲載日記載なし。Wiiバーチャルコンソールの紹介ページ。高低差による射程・攻撃の当たりやすさの変化と、後退・落下の説明を参照。2026年10月17日閲覧。

4. ファミ通.com「『FE エンゲージ』竜族のユニットは紋章士“カムイ”と相性抜群!? 配置変更、地形効果、訪問などの情報も公開【ファイアーエムブレム】」 — ファミ通.com、2022年12月5日。公式Twitterの情報を紹介した記事。出撃準備中の配置変更と茂みの地形効果を参照。2026年10月17日閲覧。

5. 電撃オンライン「【FFTインタビュー】要望を受けて源氏が盗めるように調整。タクティカルRPGの歯応えは残しつつ遊びやすさを追求したこだわりを訊く【ファイナルファンタジータクティクス - イヴァリース クロニクルズ】」 — 電撃オンライン、2025年9月2日。電撃オンラインとファミ通ドットコムの合同インタビュー。出席者は前廣和豊(ディレクター)、皆川裕史(アートディレクター)、横山文子(Co.ディレクター)。弓のチャージに関する前廣氏、高台と俯瞰視点に関する横山氏の発言を参照。2026年10月17日閲覧。


この文書は、Perplexity、Claude、ChatGPT の3つのAIの支援を受けて著述されたものです。引用画像を除き、MIT License にて提供されています。