途中で変わる回線を前提にする——ゲームプランナーのためのネットワーク入門⑤
遊び始めたときの接続が、最後まで続くとは限らない
家のWi-Fiで始めたゲームを、そのまま外へ持ち出す。駅へ向かい、混雑した場所を通り、別のWi-Fiにつながる。スマホでは、一度のプレイの途中にも、通信の通り道と品質が変わりうる。
第1回では、スマホには「通信中に接続先や経路が変わる」という観点が加わると予告した。第3回で残した、通信事業者の設備内にあるアドレス変換も、この回で扱う。
判断軸は、 スマホの回線は、「つながっている」状態が遊んでいる途中で変わる前提で設計する ということだ。家のWi-Fiでも品質は変わるが、移動するスマホでは、接続する無線設備そのものの切り替えまで考える必要がある。
スマホにも「家の外のNAT」がある
NAT(Network Address Translation)は、通信の途中でIPアドレスを変換する仕組みである。IP(Internet Protocol)のアドレスは通信先を識別する住所に当たり、第3回では、家庭内で使うプライベートアドレスと、インターネット側で使うグローバルアドレスを区別した。
NTTドコモは2013年6月10日の総務省研究会資料で、iモードとspモードでは端末にIPv4のプライベートアドレスを割り当て、インターネットへはグローバルアドレスに変換して接続すると説明している。IPv4は、IPアドレスの第4版の方式である。[1]
第3回のキャリアグレードNAT(CGN、Carrier-Grade NAT)は、こうした事業者側のアドレス共有を考えるための概念だった。RFC(Request for Comments、インターネットの技術仕様などを公開する文書群)6598は、CGN向けの共有アドレス空間を定めている。ただし、ドコモのこの資料が、そのアドレス空間の使用まで示しているわけではない。[2]
さらにドコモは2022年2月1日、対応端末へIPv6、すなわちIPの第6版のアドレスだけを割り当てる「IPv6シングルスタック方式」の提供を始めた。IPv4の宛先へは、NAT64/DNS64方式と464XLAT方式によって変換して接続する。[3]
NAT64は、IPv6だけを持つ端末がIPv4のサーバーへ接続できるように、アドレスを変換する仕組みである。[4] DNS64は、名前から接続先を調べる仕組みであるDNS(Domain Name System)の応答で、IPv4の宛先からIPv6の宛先を合成し、NAT64などの変換と組み合わせて使う。[5] 464XLATは、ネットワークの中核での変換と端末側での変換を組み合わせ、IPv6だけのネットワークで限られたIPv4接続を提供する構成である。[6] ドコモは導入の背景に、IoT(Internet of Things、さまざまな機器をインターネットにつなぐこと)機器の増加や5Gの普及に伴う、世界的なIPv4アドレス不足を挙げている。[3]
ここから持ち帰るのは、 アドレス変換は、家庭のルーターだけでなく事業者の設備内でも行われうる という点だ。以上はドコモの公表資料の範囲の話である。他社や現在の全契約へ一律に当てはめたり、スマホではP2P(Peer-to-Peer、端末同士が直接やり取りする方式)を使えないと結論づけたりはできない。
経路が変わると、接続を引き継ぐ仕事が生まれる
移動に伴い、通信する基地局が切り替わることを ハンドオーバー と呼ぶ。基地局は、端末と無線で通信する事業者側の設備である。IPA(Information-technology Promotion Agency、情報処理推進機構)のシラバスでも、ハンドオーバーはモバイル通信技術の用語例に挙げられている。[7]
Wi-Fiとモバイル回線の間でも切り替えが起きる。Appleの「接続アシスト」は、Wi-Fiが遅い、または使えないときにモバイルデータ通信を使って接続を改善する機能だ。以前の「Wi-Fiアシスト」を置き換える機能であり、有効にするとモバイルデータ使用量が増えることがある。[8]
反対方向の切り替えにも注意が要る。Scopelyが運営する『モンスターハンターNow』の公式FAQは、弱いフリーWi-Fiへ自動接続していないか確認するよう案内している。また、4G・5G・LTEなどの基地局が切り替わる場所では通信が不安定になると説明する。4Gと5Gは第4世代・第5世代の移動通信、LTE(Long Term Evolution)は移動通信の規格名である。[9]
第4回のTCP(Transmission Control Protocol)では、接続を自分と相手のソケットの対で識別する。ソケットとはIPアドレスとポート番号を組み合わせた通信の窓口だ。経路の変化に伴い、相手から見えるアドレスが変われば、通常のTCPではそのまま同じ接続として続けられない。経路変更だけで必ず切れるのではなく、接続の識別に使う値が変わることが問題になる。[10]
一方、QUICは接続IDという識別子を使い、新しいネットワークへ移ってIPアドレスやポート番号が変わっても接続を保てる仕組みを持つ。RFC 9000の第9節が扱う「接続移行」である。QUICはUDP(User Datagram Protocol)の上で動く通信方式だ。[11] ただし、この仕組みがあっても、切り替え中の通信停止や、ゲーム側の待ち時間・復帰処理まで自動で解決するわけではない。

電波表示が良くても、品質は揺れる
通信の体感は、アンテナ表示だけでは読み切れない。『モンスターハンターNow』のFAQは、狩猟中の同期に頻繁なサーバー通信が必要だとしたうえで、局所的な混雑、建物や高架による反射・減衰、人や車両の影響、移動中の参加を注意点に挙げる。固定回線より変動しやすいモバイル通信で同期を成立させることが、同作の課題なのである。[9]
契約条件にも混雑は現れる。ahamoの提供条件書は、混雑によって通信が遅くなったり、接続しづらくなったりする場合があると記す。直近3日間の利用量が特に多い利用者は、ほかの利用者より遅くなる場合もある。[12]
Opensignalの「ゲーム」指標は、リアルタイムのマルチプレイヤーゲームの体感を0〜100で評価する。材料となるのは、レイテンシ(往復伝送時間)、ジッター(遅延の変動)、パケットロス(届かなかったパケットの割合)である。2026年10月の日本レポートでは、主要4社の値は81.0〜87.2だった。収集期間は2026年7月1日〜9月28日である。[13]
この値は個々の場所や対戦の成功を保証するものではない。プランナーにとって大切なのは、ダウンロードの速さだけでなく、 短いやり取りが安定して届くか を見ることである。
5Gの表示と、今使える品質を分ける
総務省によると、2025年度末の全国の5G人口カバー率は98.6%、都道府県別では89.2%〜99.9%である。これは携帯キャリア4者のエリアを重ね合わせた人口ベースの数字だ。全地点のカバーや、ある利用者が常時5Gにつながることを意味しない。[14]
5Gには、4Gの設備と組み合わせて動くNSA(Non-Standalone、ノンスタンドアロン)と、5G専用の設備で動くSA(Standalone、スタンドアロン)がある。Opensignalの「5G Standalone Performance in Japan 2026」は、2026年4月1日〜6月29日の観測を次のように報告している。[15]
| 指標 | 5G NSA | 5G SA |
|---|---|---|
| 5GのUDP遅延 | 34.7ms | 25.7ms |
| 屋内の5GのUDP遅延 | 34.7ms | 24.4ms |
| 5Gゲーム(0〜100) | 87.6 | 91.9 |
| 5Gダウンロード速度 | 142.3Mbps | 163.7Mbps |
msは1,000分の1秒、Mbpsは1秒当たりに運ぶデータ量を百万ビット単位で表す。SAのUDP遅延は全体で26%、屋内で30%低かった。ただし、これは同レポートの観測集団の比較であり、端末をSAへ切り替えればどの場所でも同じ改善になるという保証ではない。[15]
同レポートで日本のユーザーが各ネットワークにつながっていた時間の割合は、5G以外43.8%、5G NSA 52.3%、5G SA 3.8%だった。表示値の合計は丸めにより100%と一致しない。レポートは、SAのカバーは広い一方、利用はまだ広がっていないとまとめている。[15]
別の2026年10月レポートの「5G利用率」も、最も高い社で36.1%だった。こちらは、5G端末と5G契約を持つユーザーが実際に5Gを使った時間の割合である。収集期間と対象が異なるため、先の時間割合とは直接比較しない。[13]
速度には、使える周波数の幅も関わる。2020年の総務省有識者会議を伝えたケータイWatchの報道では、4G用の周波数を5Gへ転用する場合、低遅延は見込めても、大容量・高速の実現は帯域幅の制約を受けると論じられた。[16]
さらに『モンスターハンターNow』のFAQは、基地局の設置密度が低い場所や、セルと呼ぶ基地局の通信範囲の境目などでは、5G表示があっても通信できない場合を挙げる。[9] 「5Gのマークが出ている」ことと、「低遅延の5G SAに、今つながっている」ことは別である。
使えるデータ量にも上限がある
ahamoの2026年9月25日版提供条件書では、基本の利用可能データ量は月30GBである。GBはデータ量を表すギガバイトの単位だ。当月の利用可能量を超えると、月末まで送受信時最大1Mbpsになる。これは料金プランの提供条件の一例である。[12]
速度制限中も、通信そのものが全面的に止まるとは限らない。しかし、大きなデータの取得に時間がかかれば、ゲーム側の待ち時間を超える可能性がある。
『モンスターハンターNow』のFAQは容量超過による速度制限の確認を促し、更新後は安定した固定回線などで全アセットを取得してから狩猟に臨むよう勧めている。[9] アセットとは、画像や音声などゲームで使う素材データである。データ量と通信時間の具体的な見積もりは、番外編で掘り下げたい論点だ。
「途中で変わる」を仕様とQAへ落とす
ここからは、以上の通信の性質をゲーム仕様へ置き換えて考える。まず決めたいのは、中断したときに、どこまで待ち、何を保持し、どう再接続し、どこから再開するかである。
次の表は、実在タイトルの仕様ではない架空の検討例だ。待つ時間の値は、遊びのテンポやサーバー側の制約と合わせて決める必要がある。
| 場面 | 決めておく仕様 | プレイヤーへの案内 |
|---|---|---|
| 協力プレイ中に応答が途切れた | 復帰を待つ条件、参加枠の保持、復帰時の状態同期 | 復帰待ちであることと、退出した場合の扱い |
| 報酬の受け取り直後に切れた | 成立結果を照会して画面を復元 | 確認中であることと、確認結果 |
| 大きな追加データが必要になった | サイズ表示、取得の延期・再開、プレイ開始の条件 | Wi-Fiや固定回線で事前に取得する案内 |
| 移動中に同期が安定しない | 協力・対戦への参加条件と、中断に強い遊びの提供 | 安全な場所に止まって接続を確認する案内 |
再送によって報酬などを二重処理しない設計は、「『受け取る』を一度だけにする――ゲームプランナーのための連打と通信再試行の話」で扱っている。ここでは、その仕組みを回線切り替え後の復帰にも使う、とつなげておこう。
エラー文は、分かっていることに合わせる。アプリが確認できた回線切り替えなら再接続中と伝え、速度制限の可能性なら契約側の残量確認を案内する。混雑やセルの境目をアプリが特定できない場合は、原因を断定せず、場所や接続先を変えて確かめられることを示す。
QA(Quality Assurance、品質保証)の計画にも、変化する条件を入れる。社内のWi-Fiで成功するだけでは、中断と復帰の仕様を確かめられない。
- モバイル回線で、開始から終了まで遊べるか。
- Wi-Fiとモバイル回線を途中で切り替え、待機表示と復帰結果が一致するか。
- 混雑を想定した遅延・ジッター・パケットロスで、同期と退出条件がどう動くか。
- 速度制限を想定した帯域で、追加取得や再接続が待ち時間を超えないか。
- 結果が成立した直後に通信を止め、復帰後の報酬・消費・参加状態が整合するか。
実回線の確認と、条件を制御した試験を組み合わせると、再現しにくい現象と仕様上の問題を調べやすくなる。
次回は、スマホゲームのHTTP通信へ
接続先が変わり、品質が揺れ、使える量にも限りがある。その途中でも遊びを続けられるように、中断・復帰・案内を一組で設計することが、この回の判断軸である。
第6回は「スマホゲームのHTTP通信」を扱う。この不安定な土台の上で、ゲームがサーバーへ要求を送り、結果を受け取る仕組みへ進む。
References
1. NTTドコモ「NTTドコモにおけるIPv6対応の取り組み」 — 総務省研究会第25回資料、2013年6月10日。
2. J. Weilほか「IANA-Reserved IPv4 Prefix for Shared Address Space(RFC 6598)」 — RFC Editor、2012年4月。
3. NTTドコモ「「IPv6シングルスタック方式」の提供を開始」 — 報道発表、2022年1月31日。
4. M. Bagnuloほか「Stateful NAT64: Network Address and Protocol Translation from IPv6 Clients to IPv4 Servers(RFC 6146)」 — RFC Editor、2011年4月。Abstractを参照。
5. M. Bagnuloほか「DNS64: DNS Extensions for Network Address Translation from IPv6 Clients to IPv4 Servers(RFC 6147)」 — RFC Editor、2011年4月。Abstractを参照。
6. M. Mawatariほか「464XLAT: Combination of Stateful and Stateless Translation(RFC 6877)」 — RFC Editor、2013年4月。Abstractを参照。
7. IPA「基本情報技術者試験(レベル2)シラバス Ver.9.2」 — 2026年1月8日掲載。モバイル通信技術の用語例。
8. Apple「接続アシストについて」 — Apple サポート、2026年9月15日公開(2026年11月2日確認)。
9. Scopely「通信状況が不安定、またはネットワークエラーとなって狩猟が中断されます」 — モンスターハンターNowヘルプ。
10. W. Eddy編「Transmission Control Protocol (TCP)(RFC 9293)」 — RFC Editor、2022年8月。3.4.1節および用語集。
11. J. Iyengar、M. Thomson編「QUIC: A UDP-Based Multiplexed and Secure Transport(RFC 9000)」 — RFC Editor、2021年5月。第9節。
12. NTTドコモ「提供条件書 料金プラン(ahamo)」 — 2026年9月25日版。基本データ量、超過時および混雑時の条件。
13. ロバート・ウィルジコフスキ「日本 モバイル・ネットワーク・ユーザー体感レポート 2026年10月」 — Opensignal。収集期間2026年7月1日〜9月28日。
14. 総務省「5Gの整備状況(令和7年度末)の公表」 — 総務省。2025年度末の人口カバー率。
15. Robert Wyrzykowski「5G Standalone Performance in Japan 2026」 — Opensignal、2026年9月29日。収集期間2026年4月1日〜6月29日。
16. ケータイWatch「4G転用の5Gの広告表現など今後の課題に、総務省の有識者会議」 — ケータイWatch、2020年10月28日。総務省会議についての報道。
この文書は、Perplexity、Claude、ChatGPT の3つのAIの支援を受けて著述されたものです。引用画像を除き、MIT License にて提供されています。