広さは規則で、印象は手で――自然の関係を広げる地形設計
第5回「何を置かずに残し、何をどこに集めるか」では、砂漠のまばらな景色と、水や暮らしが集まる場所を考えた。その結びで予告したのが、自然の関係を規則にして、広い世界へ展開する方法である。
オープンワールドの地形設計シリーズ最終回は、 どの関係を規則に任せ、どこを手で強調するか を考える。山も川も草原も砂漠も、これまで見てきたつながりを、配置の条件として読み直せる。
手続き的生成(プロシージャル生成) とは、ルールに従って地形や配置を自動で作る手法だ。歴史やアルゴリズムは『ゲームにおけるプロシージャル生成の技術史と設計論』に譲り、ここでは作り手が規則に何を託すかに焦点を合わせよう。
自然の関係を、「AならB」に読み替える
前の5回で扱った関係を、短い条件文に並べ直すと、次のようになる。第1回は地形と視界の関係、第2回以降は自然の成り立ちと暮らしの関係が手がかりだ。
- 第1回・見晴らしと隠れ場所:間に丘があるなら、その向こうの景色は隠れ、回り込むと見えてくる。
- 第2回・山:山の標高や斜面の条件が変わるなら、そこに育つ植物のまとまりも変わりうる。
- 第3回・川:川が谷を出て土砂を積もらせるなら扇状地ができ、平野に少し高い土地があるなら集落を置く手がかりになる。
- 第4回・草原:森林が育ちにくい半乾燥の条件なら、ステップという丈の低い草原が広がる。
- 第5回・砂漠とオアシス:乾燥した土地でも利用できる水源があるなら、植物や畑、集落が集まる場所を考えられる。
ここからは本稿の考察である。こうした自然側の事実や関係は、配置規則の候補になる。条件文はあくまで設計の出発点であり、たとえば第4回では、人が使い続けることで保たれる草原も見た。「草原なら必ず雨が少ない」と逆向きに決めつけず、作る土地に合う理由を選ぶ必要がある。
『Far Cry 5』の、土地に反応する「レシピ」
『Far Cry 5』のテクニカルアーティスト、Ubisoft MontréalのÉtienne Carrier氏は、2018年3月22日のPlayStation Blogで、広い世界を美しく、素早く埋め、何度も柔軟に作り直せる方法が必要だったと説明している。同時に、小さな場所を細かく調整して遊びを作り込む必要もあった。[1]
そこで作ったのが、地形の物理的な特徴に反応する植生の「レシピ」である。植生とは、その土地に生えている植物のまとまりを指す。Carrier氏が挙げるモンタナの景観では、露出した丘に草原が広がり、谷にはポンデローサマツの森が育つ。植物の種ごとにその場所に育つ理由があり、その条件を配置へ反映することで世界全体の一貫性を保った。[1]
山が雨を集め、小川・川・湖へ流し、侵食や周囲の植物につながる仕組みも、この考え方の一部であり、第3回で紹介したとおりだ。[1]
この事例を本稿の問いに引きつけるなら、「どの木を置くか」と一緒に、 「なぜここにその木が生えるのか」を規則に書く という考察ができる。
規則は、作り手が描く
規則を扱うための道具にも、アーティストの判断を反映させる仕組みがある。
『Horizon Zero Dawn』について、Guerrilla GamesのJaap van Muijden氏はGDC 2017で「GPU-Based Procedural Placement in Horizon Zero Dawn」を講演した。Guerrillaの公式概要には、アーティストがグラフエディタで配置規則を定義する工程が記されている。 グラフエディタ とは、処理や条件を表す部品を線でつなぎ、その関係を組み立てる編集画面だ。公式概要は、森の縁を描いたり道の向きを変えたりすることが、山を動かすのと同じくらい容易になると、その柔軟さを説明している。[2]
『Ghost of Tsushima』でも、規則を作る側の操作が重視された。Sucker PunchのMatthew Pohlmann氏によるGDC 2021の講演「Samurai Landscapes: Building and Rendering Tsushima Island on PS4」の公式概要では、植生の密度と描画距離、つまり遠くまで表示する範囲の要求に応えるための制作ツールが紹介されている。その一つが、アーティストがテクスチャ――表面の色や模様を表す画像――と配置の規則を記述できる言語だった。[3]
両事例からの本稿の考察として、規則に任せることは、作り手が規則を描くことだと整理できる。木を1本ずつ置く判断に加えて、木々が並ぶ条件や森の境界を決める判断がある。どのような関係を繰り返すかにも、作り手の意図が入る。
写実より、遊べる自然
規則にする前に、どのような自然を目指すかを決める必要がある。『紅の砂漠』のアート・レベル部門長Geun-tae Ahn氏がgamescom dev 2026で語った内容を、Inven Globalの2026年8月24日付レポートは、現実の再現から「遊べる自然」への転換として伝えている。[4]
地形の基準は、視線を遠くへ導くこと、目印を発見できること、広い見通しを確保すること、移動と戦闘を支えることだった。写実的で密な森は、動物や仕込んだ出来事に加え、手で1週間かけて置いた細部まで隠してしまったという。美しさと探索のしやすさが衝突する場合は、探索のしやすさを優先した。[4]
この4つの基準は、シリーズの物差しで読むなら、第1回の「見せる」や第2回の目印と重なる。
広げる方法も、まず小さな代表区域を手で作り、そこから規則を取り出すものだった。望む密度や見通しを備えた区域を見本に、 Houdini という、処理を組み合わせて地形や配置などを作れる制作ソフトを用いた手続き的生成で、大陸全体へ展開したのである。[4]
ここからの考察は、 広げたい見本を、先に遊べる状態にする ということだ。自然の関係を選び、小さな区域でプレイヤーの行動に合うか確かめる。その判断を含めて規則へ移せば、地形のもっともらしさと遊びやすさを一緒に検討できる。
広さは自動化で、強調は手作業で
『紅の砂漠』の制作工程については、ドゥ・スンビン氏とキム・ヒョンギョム氏によるCEDEC 2026の特別招待講演もある。2026年7月23日の「紅の砂漠(Crimson Desert):大規模オープンワールドゲーム開発のためのプロセス確立」を報じた4Gamerの7月29日付レポートでは、クエストより先に遊べる世界の土台を作る「ワールドファースト」が紹介されている。[5]
川や道など、世界全体の構造を決める要素にはHoudiniを大きく利用した。地域と地形のデータをもとに、森には小動物、水中には魚、地形に合った植物、道沿いにはNPC――プレイヤーが直接操作しない登場人物――を自動配置したという。一方、記憶に残したい場面や重要な人物は、デザイナーが個別に置いた。[5]
4Gamerはこの組み合わせを、画像説明で 「広さは自動化で,強調は手作業で」 と要約している。また、両氏の説明として、自動生成された背景の暮らしと意図的に設計した場面を、プレイヤーはほとんど区別しないと伝えている。[5]
本稿の考察として、この分担を地形設計へ持ち帰るなら、規則は地域のつながりを支え、手作業はその中で出会ってほしい場所を強調する、と考えられる。山の植物の分布を広く整えながら、旅の目印になる峰の見え方を個別に調整する、といった分担だ。
どの関係を任せ、どこを強調するか
次の表は、第2回〜第5回で参照した自然の資料とゲーム事例をもとにした、 本稿の考察 である。各作品の実装を再現した表ではなく、架空の土地を設計するときの分担案だ。
| 地形 | 規則に任せられる関係 | 手で強調する場所 |
|---|---|---|
| 山 | その地域の標高・気候条件と、植物が帯状に分布する関係 | 方角の目印になる峰、登った先で景色が開ける場所 |
| 川 | 川の作る地形と、周囲より少し高い土地に集落を置く関係 | 地域の入口や関所になる橋、渡った先を見せる場所 |
| 草原 | 半乾燥の条件と草原の広がり、放牧などで草原を保つ関係 | 進路を伝える花の帯、遠くの目標へ視線を通す場所 |
| 砂漠・オアシス | 乾燥条件とまばらな植生、水源と植物・畑・集落の関係 | 旅の途中で発見させたいオアシス、その緑が初めて見える場所 |
たとえば、川沿いの集落の候補地を規則で広く用意しても、どの橋を「次の地域へ入る瞬間」にするかは別に考えられる。水源に植物を集めても、そのオアシスを砂丘の向こうからいつ見せるかは、プレイヤーの進路に沿って調整できる。広く繰り返す関係と、一度の出会いの見せ方を組にするのである。

「見せる・隠す・運ぶ」で、広げた結果を歩き直す
分担を決めた後は、第1回の物差しへ戻ろう。以下は、ここまでの事例を踏まえた本稿の考察としての確認手順である。
- 見せる:プレイヤーの目の高さで立ち、次の目標が見つかるか確かめる。目印の峰や橋、オアシスが、周囲の木々や起伏に埋もれていないかを見る。
- 隠す:そこへ歩き、何が隠れ、どこで再び見えるか確かめる。身を隠せる場所と、発見してほしいものまで見えなくなる場所を区別する。
- 運ぶ:実際に目的地まで進み、川に沿う道や橋、草原の進路が移動につながるか確かめる。景色の中に目標が見えることと、そこへ進めることを組で確かめる。
- 規則と個別配置へ戻す:同じ困りごとが各地で起こるなら規則を見直し、特定の見せ場で起こるなら、その場所の配置を調整する。直した後に同じ経路を歩き直す。
『紅の砂漠』の密な森の失敗は、この物差しでは 「隠しすぎた」 例と読める。動物や出来事が植生に隠れたことは報道された事実である。[4] それを「規則で広げる密度が、見せたいものを消していないか」という確認項目に置き換えるのが、本稿の考察だ。
自然らしい分布ができた後にも、見せたいものへ視線が届き、歩いて近づけるかを確かめる仕事が残る。手作業で置く対象だけでなく、そこへ至る途中の見え方も、強調の一部なのである。
自然を読むことから、遊びを作ることへ
第1回では「見せる・隠す・運ぶ」という物差しを作った。第2回の山では目印・壁・眺望、第3回の川では沿う・渡る・ほとりに住む関係を見た。第4回の草原では広さを何で満たし、何で導くか、第5回の砂漠では何を置かずに残し、どこに豊かさを集めるかを考えた。そして第6回では、その関係を規則にして広げる方法へ進んだ。
このシリーズから持ち帰る設計上の考察は、自然の成り立ちを配置の理由にし、その配置をプレイヤーの行動で確かめることだ。山から水へ、水から暮らしへと関係をつなぎ、広く繰り返す部分を規則に託す。そのうえで、目を留め、近づき、記憶に残してほしい場所を手で強調する。
広い世界のどこを歩いても、何かが見え、何かが隠れ、その先へ進む理由がある。規則と手作業の両方を、その一歩につなげたい。
References
1. Étienne Carrier「The Procedural World Generation of Far Cry 5」 — PlayStation Blog、2018年3月22日。制作の反復、地形と植生の関係、biome recipesの説明を参照。
2. Jaap van Muijden「GPU-Based Procedural Placement in Horizon Zero Dawn」 — Guerrilla Games、2017年3月1日。GDC 2017講演の公式概要を参照。
3. Matthew Pohlmann「Samurai Landscapes: Building and Rendering Tsushima Island on PS4」 — GDC Vault、GDC 2021。植生密度・描画距離と、アーティストが規則を記述する言語についての公式概要を参照。
4. Doohyun “Biit” Lee「“If You Can See It, You Should Be Able to Go There”: The Secrets Behind the Art of Pearl Abyss’ Crimson Desert」 — Inven Global、2026年8月24日。gamescom dev 2026の講演レポート。Geun-tae Ahn氏による遊べる自然、代表区域からの規則抽出、密な森の失敗についての説明を参照。
5. Gin「『紅の砂漠』は約200人でどう作られたのか。クエストではなく世界から先に作る『ワールドファースト』と,全社共通のXMLが支えた大規模オープンワールド開発[CEDEC 2026]」 — 4Gamer.net、2026年7月29日。7月23日の特別招待講演のレポート。「広さは自動化で,強調は手作業で」は同記事の画像説明の表現。
この文書は、Perplexity、Claude、ChatGPT の3つのAIの支援を受けて著述されたものです。引用画像を除き、MIT License にて提供されています。