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『Marvel’s Avengers』は、なぜ大型IPをゲームとして定着させられなかったのか――座組みから読む失敗事例

大型IPをゲーム化するとき、原作の知名度は強力な初速をもたらす。しかし、その知名度は、ゲームとして何を提供する企画なのかを代わりに決めてはくれない。2020年の『Marvel’s Avengers』は、そのことを端的に示した。本稿は「他メディアIPのゲーム化 成功・失敗事例シリーズ」の第2弾として、Crystal Dynamics開発、スクウェア・エニックス発売の本作を、技術的な不具合の列挙ではなく、座組みと企画判断の連鎖から検証する。

エグゼクティブサマリー

『Marvel’s Avengers』の失敗は、単発の品質事故ではない。単独プレイの物語を主力にしてきた開発体制へ、協力プレイ、装備収集、継続的なコンテンツ供給を同時に要求する形式を載せたこと。映画で強く定着したキャラクターの「顔」と比較される状況で、独自デザインの必然性をゲームの体験として十分に示せなかったこと。そして、発売後に成立していなければならない反復プレイの基盤を、物語キャンペーンとは別の難題として残したこと。この三つが重なった。

これは「映画俳優の顔を使わなかったから失敗した」という話ではない。第1弾で扱った『Marvel’s Spider-Man』も映画版とは別の独自解釈である。違いは、独自解釈が、プレイヤーに約束するゲーム固有の行為と一体になっていたかどうかにある。『Marvel’s Avengers』では、映画から距離を取る視覚上の判断と、長く遊ばせるゲームの設計が、どちらも明確な代替価値として結びつかなかった。


2017年に成立した座組み:物語型スタジオと継続運営型プロダクト

2017年1月、Marvel Entertainmentとスクウェア・エニックスは、マーベルのスーパーヒーローを題材にオリジナルゲームを開発・販売する、複数年・複数タイトルのライセンス提携を発表した。後のマーベル公式告知も、この提携を2017年のものとして位置づけている。[1] 第1弾となった『Marvel’s Avengers』をCrystal Dynamicsが主導し、Eidos-Montréalが協力した。

Crystal Dynamicsは『トゥームレイダー』を2006年から担い、2013年のリブート以降もララ・クロフトの冒険を中心とした、演出とキャラクターの変化を軸にする三人称アクションを送り出してきた。[2] Eidos-Montréalも、『デウスエクス』を最初のプロジェクトに据え、プレイヤーの選択と物語を結びつける単独プレイ中心の作品を主力としてきた。[3] 両者の実績は、映画的な導入、主人公への感情移入、局面ごとに作り込んだミッションに強みがあることを示す。

一方、2019年の公式説明で『Marvel’s Avengers』は、キャラクター主導のキャンペーンに加え、最大4人のオンライン協力プレイと「長年にわたって拡張されるオンライン世界」を備える作品として発表された。[4] この二つは足し算ではない。単独プレイの物語は、密度の高い一回限りの驚きや、決め打ちの演出へ資源を集められる。継続運営の協力プレイは、同じ任務を何度遊んでも役割、報酬、難度、仲間との組み合わせが変わる循環を、発売時点で成立させなければならない。

問題は、Crystal DynamicsとEidos-Montréalが物語を作れなかったことではない。物語型スタジオを核にしながら、もう一つの大きな専門領域である「反復を前提にした協力プレイの運営」を、同じ製品の中核へ据えたことである。開発人数や予算を増やしても、設計の経験則、プレイテストの見方、更新時の優先順位は自動的には移植されない。

物語型スタジオの既存の蓄積と、協力プレイを継続運営する製品が要求する能力の差を示す因果図


E3 2019:「顔」を自分たちの表現へ置き換える判断

2019年6月のE3で初披露された本作は、キャプテン・アメリカ、アイアンマン、ハルク、ブラック・ウィドウ、ソーを描くオリジナルの物語として発表された。マーベルは、単独プレイと協力プレイを組み合わせた独自の解釈による作品だと説明している。[5] だが最初の反応で話題の中心になったのは、ゲームプレイの約束よりも、MCUの俳優に似ていないキャラクターの顔と衣装だった。

開発側は、MCU俳優の肖像を用いず、別の声優と独自デザインを選んだ。肖像利用の契約条件そのものは公表されていないが、当時の報道でクリエイティブディレクターは、批判の後もデザインを変えず、独自のアベンジャーズとして作る方針を示している。[6] 独自の正史を作ること自体は誤りではない。映画版の再現ではないゲームが、原作の別の魅力を強く提示できる例は多い。

ここで失われたのは、単なる有名俳優の再現ではない。IP購入前の顧客にも一瞬で働く、既知の人物像への接続である。実写調のモデル、MCUを想起させるチーム編成と衣装、しかし俳優の顔ではないという組み合わせは、映画ともコミックとも異なる独自の美術言語を即座に伝えるには弱かった。比較の基準だけが最も強い映像シリーズに置かれ、ゲームはその比較を別の体験で上書きする必要を負った。

プランニング上は、これを「認知資産の置換」と考えるべきである。借用IPの既知の顔、声、色、衣装、名場面を変えるなら、何を代わりに覚えてほしいのかを発売前の映像と試遊で証明する必要がある。本作ではその置換先が、独自のストーリーなのか、各ヒーローの戦闘なのか、協力プレイの体験なのか、初披露の時点で焦点化されなかった。

『Marvel's Avengers』のオリジナルデザインによるキャプテン・アメリカ、アイアンマン、ハルク、ブラック・ウィドウ、ソー、カマラ・カーン 画像出典(引用):マーベル, Marvel’s Avengers Game (2020) 。ゲーム独自のキャラクターデザインを確認するための公式キービジュアルとして引用。© MARVEL. WebP変換。


発売後に現れた二層構造:キャンペーンとエンドゲームは別の製品だった

『Marvel’s Avengers』は2020年9月4日に発売された。公式ページは、Crystal DynamicsとEidos-Montréalを開発元、スクウェア・エニックスを発売元とし、単独プレイと最大4人のオンライン協力プレイを併記している。[7] 発売時の批評は一様ではなかった。カマラ・カーンを軸にアベンジャーズを再結成するキャンペーン、各ヒーローを操作する場面、声の演技には肯定的な評価があった。

一方、キャンペーン完了後に前面へ出るアベンジャーズ・イニシアティブは、別の評価を受けた。レビューは、より高い難度の任務が装備の必要パワーで段階的に開放される構造、装備掘りを継続動機にする設計、同じ種類の戦闘と任務の反復を指摘した。装備の特殊効果はあっても、取得と更新が戦い方を変える手応えへつながりにくく、技術的な不具合もプレイを妨げた。[8]

この評価の割れ方は重要である。物語のキャンペーンが成立していたことは、ライブサービス部分も成立していたことを意味しない。キャンペーンは、個別のミッション、演出、主人公の成長を一回通すことで満足を作れる。対してエンドゲームは、同じボス、敵、空間、報酬に戻る理由を、何十時間にもわたって作り続けなければならない。

装備収集を採用する場合、数値を上げるだけでは足りない。ビルドごとに操作、役割、協力時の判断が変わること、獲得方法がその変化を試したくさせること、次の更新までの目標が見えることが必要になる。本作では、物語を終えた顧客へ「次は何を、なぜ、誰と繰り返すのか」を十分に渡せなかった。これはコンテンツ量だけでなく、反復の意味を設計する問題である。

キャンペーンの一回完結型の構造と、エンドゲームの反復・継続更新型の構造を対比した図

カマラ・カーンを含む『Marvel's Avengers』のヒーローたちを描いた公式キービジュアル 画像出典(引用):マーベル, Marvel’s Avengers Game (2020) 。カマラ・カーンを含むゲーム版のヒーロー構成を示す公式キービジュアルとして引用。© MARVEL. WebP変換。


商業面で露呈した、企画と採算のずれ

スクウェア・エニックスは2020年11月の決算説明で、本作の初動販売が想定を下回り、開発費の償却を完全には相殺できなかったため、HDゲーム事業が営業損失になったと説明した。[9] 同社は作品単位・スタジオ単位で開発と収益を管理しているとも説明しており、翌2021年の説明資料では、本作の販売実績を踏まえた懸念に触れている。[10]

費用と販売本数の正確な内訳はスクウェア・エニックスから公表されていない。当時の市場アナリストによる推定は、開発・マーケティング費が約1億7,000万〜1億9,000万米ドル、販売本数が約300万本というものだった。したがって、この数字を会社開示の確定値として扱うべきではない。しかし、会社自身が初動販売では開発費を回収できなかったと認めた事実と組み合わせると、大型IP、複数スタジオ、発売後の継続開発を前提にした投資回収が崩れた規模感を読む材料にはなる。[11]

さらにスクウェア・エニックスの2021年年次報告書で松田洋祐社長は、本作をGame as a Service(GaaS)への挑戦作と位置づけたうえで、スタジオと開発チームの特性・嗜好に合うゲームデザインを選ぶ必要性が明らかになった、と総括した。[12] これは開発者個人の能力を否定する発言ではない。むしろ、既存の強みを、求める製品形式の要件へどう接続するかを、企画段階で検証し切れなかったという経営上の反省である。

推定費用、推定販売本数、HDゲーム事業の営業損失を並べ、費用と販売本数が公式非開示のアナリスト推定であることを注記した図


2023年の終了:更新を約束した製品が、更新を止めるまで

発売前の公式説明は、新ヒーローと地域を追加し、物語を複数年にわたって進める方針だった。[4] 実際には、発売後もキャラクター、拡張、調整は続いたが、2023年3月31日のUpdate 2.8を最後に新規コンテンツの追加を終えた。同アップデートは公式サポートを同年9月30日に終了すると告知している。[13]

9月30日には販売が終了し、所有者は再ダウンロードできる一方、単独プレイとマルチプレイは原則として継続可能と案内された。定期イベントも残ったが、顧客サポートは終了した。[14] サーバーが直ちに停止したわけではない。しかし、新たな理由を供給する運営は終わった。華々しい複数年提携の第一作は、サービスの成熟ではなく、購入不能な既存作品としての維持へ移ったのである。

クレジット残高に応じて配布されるゲーム内リソースを示す公式の変換表 画像出典(引用):Crystal Dynamics, Final Update on the Future of Marvel’s Avengers 。2023年3月31日からのクレジット残高の変換を示す公式表として引用。© Crystal Dynamics. WebP変換。


プランナーへの示唆:選定、認知資産、運営を別々に検証する

第1弾の『Marvel’s Spider-Man』と対比すると、ここで見るべきなのは「マーベルIPだったか」ではない。どちらも大規模な認知を持つ原作を扱い、映画とは別のゲーム独自の物語を作った。明暗を分けたのは、原作の規模ではなく、企画の中心をどの行為に置き、その行為を担う座組みをどう設計したかである。

1. スタジオの適性を、ジャンル名ではなく最重要動詞で判定する

Crystal Dynamicsの蓄積を乱暴に要約すれば、最重要動詞は「単独プレイの物語を進める」である。キャラクターに感情移入し、作り込まれた局面を突破し、次のドラマへ進む行為だ。『Marvel’s Avengers』の継続運営部分が必要とした動詞は、「仲間と繰り返し協力し、異なるビルドで更新された課題へ戻る」だった。両者は近接する三人称アクションでも、報酬設計、任務設計、テスト、運営の評価軸が異なる。

候補スタジオを選ぶ際は、「アクションゲームを作ったか」「有名シリーズを作ったか」では不十分である。借用IPで顧客が最も反復したい動詞を一文で置き、その動詞を入力、空間、報酬、失敗復帰まで作り込んだ実績があるかを確認する。足りない領域があるなら、協業先を後から足すのでなく、企画の責任分界と試作計画に最初から組み込むべきである。

2. 原作の「顔」を変えるなら、代替の認知資産を先に証明する

既知のキャラクター像は、ライセンス料の付属物ではない。広告、店頭、初見の映像で、顧客が「これは自分の知っている作品だ」と認識する入口である。そこを変える判断には、二つの道がある。コミック、アニメ、ゲーム独自の美術として、ひと目で別の魅力を伝えるか。あるいは、顔の比較を忘れさせるほど強いプレイ体験を最初に見せるかである。

承認会議では、設定の正しさだけでなく、無音の静止画、30秒のトレーラー、初回試遊の各段階で何が記憶されるかを確認したい。ここで映画俳優に似ているかだけをKPIにする必要はない。だが、既存の認知を手放したなら、新しい認知の核を計測可能な仮説として置かなければならない。

3. ライブサービスは、発売後の予定表ではなく発売時の品質要件である

「後からコンテンツを足せる」は、発売時の反復設計を代替しない。まず、発売時点の任務、報酬、協力関係が、物語を終えたプレイヤーを戻らせるかを検証する。次に、ヒーローや地域を加えたとき、既存のビルドと難度、マッチング、コミュニティがどう変わるかを試作する。最後に、修正と追加コンテンツを並行できるチーム編成と意思決定の速度を見積もる。

この順序を守れば、物語型スタジオがサービス型作品を作れない、という結論にはならない。必要なのは、物語の強みを残したまま、別の動詞に必要な専門性と運営能力を、予算、権限、検証の単位まで具体化することである。


おわりに:原作の大きさではなく、座組みが体験を決める

2018年の『Marvel’s Spider-Man』と2020年の『Marvel’s Avengers』は、同じマーベルという巨大IPを、隣接する三人称アクションの市場で扱った。前者は、Insomniac Gamesの高速移動の蓄積を「都市を糸で飛ぶ」という中核行為へ集中させた。後者は、強い物語型の蓄積を持つ座組みに、別種の継続運営型プロダクトを同居させた。その差は、原作の知名度では埋まらなかった。

失敗事例を、バグや一つのデザイン判断だけへ還元してはならない。IPの顔をどう扱うか、最重要動詞を誰が作るか、発売後の反復を誰が責任を持って運営するかは、互いに独立しない。借用IP企画の初期ほど、この三つを同じレビューで検証する必要がある。

次の失敗事例では、『ロード・オブ・ザ・リング:ゴラム』や『New ガンダムブレイカー』のように、原作のどの行為をゲームへ翻訳するかが曖昧になった作品も候補になる。成功と失敗を並べる目的は、正解集を作ることではない。自社の座組みで、何を約束し、何を捨て、どの能力を先に確保すべきかを判断できるようにすることである。

References

1. Get Ready For The Worldwide Reveal of ‘Marvel’s Avengers’ - 2017年のMarvel Entertainmentとスクウェア・エニックスの複数年・複数タイトル提携、およびCrystal DynamicsとEidos-Montréalによる第1作を記したマーベル公式告知。

2. Projects | Crystal Dynamics - Crystal Dynamicsによる『トゥームレイダー』フランチャイズの継続的な担当を示す公式プロジェクト一覧。

3. Eidos-Montréal looks back on 15 years of amazing games - Eidos-Montréalが『デウスエクス』を最初のプロジェクトとして始めたことを振り返る公式記事。

4. ‘Marvel’s Avengers’: An E3 2019 Interview with Crystal Dynamics’ Studio Head Scot Amos - 単独プレイ、協力プレイ、長期拡張の方針を説明したE3 2019時点の公式インタビュー。

5. E3 2019: ‘Marvel’s Avengers’ Begins at A-Day in Official Trailer Reveal - E3初披露時のストーリー、キャラクター、単独プレイと協力プレイの公式説明。

6. E3 2019: Avengers Game’s Character Designs Won’t Change After Backlash, Dev Says - MCU俳優の肖像と異なるキャスト・デザイン、および開発側のデザイン維持方針を報じた当時の取材記事。

7. Marvel’s Avengers Game (2020) - 開発元、発売元、発売日、最大4人のオンライン協力プレイを記したマーベル公式ページ。

8. Marvel’s Avengers Review – Infinity War - キャンペーンとエンドゲームの評価差、装備収集と反復任務、不具合への批評を具体的に扱った発売時レビュー。

9. 2Q FY2021/3 Financial Results Briefing - 初動販売が期待を下回り、開発費償却を相殺できなかったというスクウェア・エニックスの公式説明。

10. Outline of Results Briefing held on May 13, 2021 - 本作の販売実績を踏まえ、作品・スタジオ単位で開発と収益を管理するというスクウェア・エニックスの説明。

11. Square Enix confirms Marvel’s Avengers is yet to break even following ‘slow initial sales’ - 約1億7,000万〜1億9,000万米ドルの費用と約300万本販売を当時の市場アナリスト推定として報じた記事。

12. Annual Report 2021 - GaaS化で露呈した、スタジオ/開発チームの特性とゲームデザインの適合に関する松田洋祐社長の総括。

13. Patch Notes v2.8 - 2023年3月31日の最終コンテンツ更新の内容を記したCrystal Dynamics公式パッチノート。

14. Final Update on the Future of Marvel’s Avengers - 2023年9月30日の公式サポート終了、およびそれ以降も単独・協力プレイを継続できることを説明したCrystal Dynamics公式サポート記事。


この文書は、Perplexity、Claude、OpenAI Codex の3つのAIの支援を受けて著述されたものです。引用画像を除き、MIT License にて提供されています。