その情報は、目・耳・手のどれか一つだけに預けていないか――色覚・聞こえ・操作のアクセシビリティを事例で読む
敵の接近を足音で知る。インクの色で陣地を見分ける。ボタンを押し続けてスキルを使う。ゲームで何気なく行っている判断や操作には、特定の感覚や身体の動きを前提にしたものがある。
ゲームのアクセシビリティ設計――「遊べない」を減らす企画・実装・検証の実務は、アクセシビリティの考え方と開発実務を扱う総論である。本稿はその 事例編 として、色覚の特性、聞こえにくさ(難聴)、身体の障害による操作の制約に関わるゲームや機器を読む。
判断の出発点は、 「その情報は、目・耳・手のどれか一つだけに預けていないか」 である。加えて、情報を受け取った後に、プレイヤーが選べる入力方法も確かめる。事例ごとに、機能の紹介から一歩進み、プランナーが自分のゲームで何を確かめ、何を仕様に書くかを考えていく。
1. 色覚――『スプラトゥーン3』から、追加する色の確認を考える
『スプラトゥーン3』では、塗られたインクの色が、自陣と相手陣地を見分ける重要な手掛かりになる。2022年11月の『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』とのコラボフェスでは、青インクが見えにくいという報告が多数寄せられたと、AUTOMATONが報じた。記事では見え方の個人差にも触れており、報告全体を特定の色覚の特性と結び付けては扱っていない。[1]
同報道によると、ゲーム内の「色覚サポート」をオンにすると青が紫寄りになり、自分のチームのインク色も変化した。本体設定の色調反転やグレースケール化を試すプレイヤーもいた。これは当時のフェスについての報道である。[1]
この事例から取り出せるのは、 イベントで追加する色も、ゲームの情報設計の一部である という確認点だ。チームを象徴する限定カラーは、雰囲気を作ると同時に、プレイヤーが瞬時に判断するための表示でもある。通常時に見分けられる組み合わせでも、背景、照明、発光表現、混戦時の重なりが変われば、改めて確かめる必要がある。
プランナーが確かめることは、 「今回の色を、通常設定と色覚向けの設定の両方で見分けられるか」 である。確認対象には味方と敵の組み合わせに加え、キャラクターと地面、表示と背景の境界も含める。
仕様には、追加する配色の組み合わせ、色覚向けの設定時に置き換える色、確認する背景や場面を記す。自分のゲームにマーカーやチーム一覧があるなら、形・模様・文字など、色以外の識別手段も併記する。季節イベントや限定カラーを追加するたびに、この確認を行う項目を持っておきたい。
2. 聞こえ――効果音、会話、ムービーを分けて見る
音が伝えるものには、敵が近づいているという状況、誰かが話しているという出来事、台詞の意味などがある。それぞれに、代わりの伝え方を考える必要がある。
『Fortnite』――音の出来事を視覚的な合図にする
Epic Gamesの公式ヘルプは、『Fortnite』で聞こえにくいプレイヤー向けの視覚的な合図を有効にできると案内している。効果音の視覚化を設定することで、音による手掛かりを画面でも受け取れるようにするものだ。[2]
ここでプランナーが確かめるのは、 「音だけを頼りに判断させている出来事は何か」 である。足音、敵の接近、攻撃の合図などを列挙し、それぞれについて、発生した事実だけでよいのか、種類や方向、距離まで必要なのかを決める。
たとえば、画面外の敵への対応が必要なゲームなら、「足音のアイコンを表示する」だけでは仕様が足りない。どの音を対象とし、どの方向に表示し、いつ消すかまで書く。また、音を聞いた場合と視覚的な合図を見た場合とで、判断に必要な情報がそろっているかを比べる。ここで挙げた項目は、自分のゲームの仕様を考えるための例である。
『Forza Horizon 5』――物語を受け取る言語を選べるようにする
『Forza Horizon 5』には、2022年3月1日のアップデートで、ゲーム内のムービーにアメリカ手話(ASL)とイギリス手話(BSL)を表示する機能が加わった。画面内に手話の演者を重ねて表示する仕組みである。[3] 開発者へのインタビューでは、表示位置や背景の有無を調整できると説明されている。[4] Engadgetも、色付きの背景を付けるか選べると紹介している。[5]
同作にコンサルタントとして参加したCameron Akittは、手話を第一言語とする人にとって、字幕を読む負担があることを説明している。字幕と手話では、物語を理解するときの負担や受け取れる表現が異なりうる。[3][4] ASLとBSLは別の言語であり、この対応を日本手話への対応と読み替えることもできない。
プランナーが確かめることは、 「誰に、どの言語・表現で、どの場面の内容を届けるのか」 である。仕様には、対応言語、対象となるムービー、表示位置や背景の設定を分けて書く。手話表示と字幕、重要な画面情報が重ならず、それぞれを読み取れる配置も必要になる。
『ファイナルファンタジーXIV』――導入時の「サウンドの視覚化」
『ファイナルファンタジーXIV』では、2014年9月16日のパッチ2.38で、Windows版に「サウンドの視覚化」が試験導入された。GAME Watchの導入時の説明では、聞こえにくいプレイヤーへのサポートとして、BGMは青、システム音は赤、効果音・環境音・ボイスは緑の波形で表示する。音量設定で波形の大きさを調整でき、ムービーは対象外だった。音の発生や種類を視覚で捉える機能の例である。[6]
聞こえの仕様は、伝える内容と対象場面をセットにする
これらの事例を自分の企画へ持ち帰るなら、音の一覧に 「代わりに伝える内容」と「対象場面」 を加えるとよい。
| 音が伝える情報の例 | 仕様で決めることの例 |
|---|---|
| 足音、敵の接近 | 発生・方向・距離のうち、判断に必要な情報をどこまで視覚化するか |
| 攻撃前の効果音 | 何が起きるか、いつ対処すべきかを、画面上でも伝えられるか |
| 会話 | 台詞に加え、話者名や画面外からの方向を表示するか |
| 意味のある環境音 | 「扉が開く」など、状況を理解するための効果音字幕を付けるか |
| ムービー内の会話 | 通常プレイとは別に、字幕や手話の対象場面・言語を定めているか |
この表は仕様検討の例であり、各作品の対応一覧ではない。「字幕あり」という一項目を、台詞、効果音、話者、方向へ分けることで、何が届くのかが具体的になる。
3. 目の代わりに耳で伝える――『ストリートファイター6』
ここまでとは逆に、視覚情報を音へ移す例が『ストリートファイター6』である。AUTOMATONが2023年5月に紹介したサウンドアクセシビリティには、相手との距離、めくり攻撃のヒット、上段・中段・下段の攻撃のヒット、体力・SAゲージの残量、ドライブゲージの状況などを効果音で知らせる項目がある。キャラクターやステージの選択時の読み上げも含まれる。[7]
距離のお知らせでは、相手が遠いほど音が低く、鳴る間隔が長くなる。近づくと音が高く、間隔が短くなる。体力・SAゲージの残量は、アシストサウンドに設定したボタンを押して通知させる方式である。同報道によると、サウンドアクセシビリティは2022年のクローズドβテストの段階から実装されていた。[7]
改善には、全盲のプレイヤー3人によるプレイと分析が関わった。ePARAも、サウンドに関するレポート業務を受託し、障害当事者が主導して助言したと発表している。[8]
この事例でプランナーが確かめることは、 「表示を音に置き換えたとき、判断に必要な違いが聞き分けられるか」 である。距離は連続的な変化、攻撃の種類は区別すべき出来事、ゲージは必要に応じて知りたい残量である。情報の性質に合わせて、伝え方も変わる。
自分のゲームの仕様には、何を音の高さ・間隔・種類に対応させるか、自動で鳴らすか操作して聞くかを記す。戦闘音や台詞が重なる状況でも区別できるか、繰り返し鳴る音がほかの手掛かりを隠さないかも、実際のプレイで確かめたい。当事者と一緒に、その音からどの判断ができたかを見ることが大切である。
4. 複数の伝え方と入力方法を選ぶ――『ディアブロ IV』
Blizzardは『ディアブロ IV』の発売前に、アクセシビリティのリードデザイナーDrew McCroryの説明を交えて機能を紹介した。入力では、キーボード・マウスとコントローラーのすべての入力の割り当て直し、押し続けるスキルの切り替え操作、左右スティックの入れ替えによる片手操作の補助、ターゲット固定の維持を挙げている。[9]
情報の提示では、文字とカーソルの大きさの変更、プレイヤー・敵・物・NPCを選んだ色で縁取る機能、内蔵の画面読み上げを紹介している。字幕は初期設定でオンになる。装備は色に加えて音でもレアリティを伝え、通知対象とするレアリティを選べる。[9] 縁取りの色の選択は、色覚の特性にも役立ちうる設計である。
ここでプランナーが確かめることは、 「情報を知り、対象を選び、操作を続けるまでがつながっているか」 である。アイテムの存在を音で知っても、選択できなければ取得に進めない。敵を選べても、必要な間ボタンを押し続けられなければ、想定した戦い方を続けにくい。
仕様を書く際は、「レアな装備を通知する」「スキルの入力を変更する」といった機能名を、プレイヤーの行動へ結び付ける。たとえば自分のゲームに切り替え操作を入れるなら、再度押したとき、対象が消えたとき、メニューを開いたときに動作を終えるかまで決める。通知を追加する仕様と入力の負担を減らす仕様を、同じプレイの流れで確かめるのである。
5. 身体と操作――専用コントローラーをゲーム側から支える
身体の障害による操作の制約に対しては、押しやすい場所や形へ入力を組み替えられる機器がある。機器の特徴を知ると、ゲーム側で残すべき選択肢も具体的になる。
SIE「Access コントローラー」――配置と割り当てを組み替える
PS5用のAccess コントローラーは、2023年12月6日発売、日本での発売時の希望小売価格は12,980円(税込)である。形状を交換できるボタンキャップやスティックキャップ、外部機器を接続する3.5mm拡張端子4つを備える。ボタンの割り当て変更、長押し状態のオン・オフ切り替え、ボタンの無効化にも対応する。[10]
設定をまとめたプロファイルはPS5に最大30個、Access コントローラー本体には最大3個を保存できる。最大2台のAccess コントローラーとDualSense ワイヤレスコントローラーを組み合わせ、一つの仮想コントローラーとして使うこともできる。[10][11]
Microsoft「Xbox Adaptive Joystick」――片手用の入力を組み込む
Xbox Adaptive Joystickは、2025年3月18日(米国時間)に発売された片手用の有線コントローラーで、発売時の米国価格は29.99ドルである。[12] 日本向けのMicrosoft Storeにも「XBOX アダプティブ ジョイスティック」として掲載されており、2026年10月23日の参照時点の価格は4,950円(税込)である。[13]
総論で紹介したXbox Adaptive Controllerへ直接接続できるほか、複数のコントローラーを一つとして使うXbox Controller Assistにも対応する。これは、一人が入力を複数機器へ分けたり、二人で操作を分担したりするための選択肢になる。[14]
プランナーが確かめるのは、機器から先の操作条件
これらの機器が広げるのは、ボタンを置く位置、入力に使う身体の部位、使う機器の組み合わせである。ゲーム側でも、 「その組み合わせで、必要なすべての操作に到達できるか」 を確かめたい。
| 確かめること | 自分のゲームの仕様に書くこと |
|---|---|
| すべての操作を割り当て直せるか | 移動・戦闘に加え、メニュー、決定・取消、特殊操作も含めた対象一覧 |
| 押し続けや連打の負担を変えられるか | 切り替え操作や自動入力の対象、開始・解除条件、画面上の状態表示 |
| 同時押しを減らせるか | 一つの入力への集約、順番に押す方法、操作の省略などの代替案 |
| 本体側で割り当てを変えても案内を理解できるか | ゲーム内表示が示す論理上のボタンと実際に押す場所の関係、変更情報を取得できる範囲 |
| 二人で一つのキャラクターを操作する形を妨げないか | 複数機器を統合した入力で、ゲーム進行や案内が途切れないことの確認条件 |
本体側の割り当て変更の情報を、ゲームが取得できるかは環境による。表示の自動追従を前提にせず、取得できる情報と実際の表示を対応させて仕様に記す。ボタンの場所だけでなく「回避」「決定」といった操作名も示すなど、案内の方法まで考えたい。
専用機器による入力の組み替えと、ゲーム内での操作方法の選択は、組み合わせて確かめるものなのである。
6. 情報の一覧表を作り、追加内容のたびに更新する
ここまでの事例を横断するには、 機能ではなく、プレイヤーが知るべき情報を行にした一覧表 を作るとよい。敵の位置、攻撃の予兆、残り体力、アイテムのレアリティ、会話などを並べ、「目」「耳」「手」のどこへ載せているかを書く。ここでの「手」は、情報を受け取る手段としての振動を指す。

たとえば攻撃の予兆が画面だけ、仲間の呼びかけが声だけなら、表に印を付ける。そのうえで、何を追加すれば同じ判断ができるかを考える。予兆に効果音を足す場合も、「何か鳴った」と分かるだけでよいのか、攻撃の種類や回避のタイミングまで伝えるのかを決める。
表の複数列が埋まった行も、内容を読み比べる必要がある。「敵が左から近づく」という情報に対し、振動が単に危険を知らせるだけなら、方向の代わりにはなっていない。また、目の列に色と文字があっても、どちらも画面を見る必要がある。 伝達手段の数と、判断できる内容の両方を見る のである。
実務用の表には、対象場面、設定の初期値、プレイヤーが変更できる項目も添える。イベント、新しい色、新モード、追加コンテンツのたびに行を追加・更新し、既存の代替手段が新しい内容にも適用されるかを確認する。『スプラトゥーン3』から考えた配色の確認も、この更新に組み込める。
操作については別に、各行の情報を受けて何を入力するかを結び付ける。「攻撃の予兆を知る」から「回避する」までをたどれば、伝達の不足と同時押しなどの入力上の制約を続けて見られる。
表を埋めた後は、『ストリートファイター6』の例のように当事者と一緒に遊び、どの手掛かりで何を判断できたかを確かめる。テストの進め方は、総論の「当事者を含むテストは、答え合わせではなく発見である」を参照してほしい。
企画に持ち帰る6つの問い
- その情報は、目・耳・手のどれか一つだけに預けていないか。 敵の接近、攻撃の予兆、会話まで、情報の名前で列挙できるか。
- 新しい色でも見分けられるか。 限定カラーやイベントの照明を、通常設定と色覚向けの設定の両方で確かめているか。
- 別の手段で、同じ判断ができるか。 音を視覚化したときや表示を音にしたときに、種類・方向・タイミングが抜けていないか。
- 通常プレイとムービーの両方を扱っているか。 字幕や手話について、対象場面、言語、表示内容を仕様に書いているか。
- 情報を知った後、必要な操作ができるか。 割り当て変更、押し続け・連打の代替、同時押しの削減、複数機器での操作を確かめているか。
- 追加内容を当事者と確かめられるか。 表を更新し、伝わった内容と実際にできた操作を一緒に見ているか。
References
1. Ayuo Kawase「『スプラトゥーン3』フェスで『青インク』見えづらい問題報告多数。設定変更で工夫する人々」 — AUTOMATON、2022年11月12日。2022年11月のフェスに関する報道。
2. Epic Games「Are there any accessibility settings for Fortnite?」 — Epic Gamesヘルプ、公開日記載なし。2026年10月23日参照。
3. Athima Chansanchai「Forza Horizon 5 introduces sign language support throughout in-game scenes」 — Microsoft Source、2022年2月28日。2022年3月1日のアップデートと、当事者・開発関係者の説明。
4. Ben Bayliss「Playground Games on the Forza Horizon 5 Sign Language Feature」 — Can I Play That?、2022年2月28日。開発者・コンサルタントへのインタビュー。「Cutscenes For Control」「Customization Available」「Why Sign When Subtitles?」参照。
5. Igor Bonifacic「‘Forza Horizon 5’ adds American and British Sign Language support」 — Engadget、2022年2月28日。手話表示の背景色の設定について参照。
6. 中村聖司「『新生FFXIV』、“サウンドの視覚化”をパッチ2.38で導入」 — GAME Watch、2014年9月16日。Windows版への試験導入時の説明。
7. Taijiro Yamanaka「『ストリートファイター6』の”視覚情報なしで対戦できる機能”に全盲プレイヤーが協力していた。ePARAがサポート」 — AUTOMATON、2023年5月1日。発売前のサウンドアクセシビリティの紹介。
8. 株式会社ePARA「6月2日発売『ストリートファイター6』のサウンドデザインにバリアフリーeスポーツePARAが協力」 — PR TIMES、2023年5月1日。ePARAによるプレスリリース。
9. Blizzard Entertainment「Combatting Demons with Accessibility in Diablo IV」 — Blizzard News、2023年6月6日の発売前の記事。公開日の表示なし。「Dexterity Assistance」「Text Assistance」「Vision Assistance」参照。色を選べる縁取りが色覚の特性にも役立ちうるという評価は、本稿による設計上の考察である。
10. Isabelle Tomatis「PS5®用『Access™ コントローラー』12月6日(水)に全世界同時発売決定! 7月21日(金)から順次予約受付開始!」 — PlayStation.Blog 日本語、2023年7月14日、同年9月22日更新。
11. ソニー・インタラクティブエンタテインメント「Access コントローラー」 — PlayStation公式サイト、公開日記載なし。2026年10月23日参照。プロファイルの保存先と個数、複数コントローラーの連携を参照。
12. Marijn Rongen「Microsoft releases Xbox Adaptive Joystick」 — Can I Play That?、2025年3月18日。米国での発売日・価格を参照。
13. Microsoft「XBOX アダプティブ ジョイスティック」 — Microsoft Store日本向けページ、公開日記載なし。日本向けの商品掲載と、2026年10月23日参照時点の4,950円(税込)の表示を参照。価格・在庫は変動する。
14. Gaming Accessibility Team「Xbox Unveils Four New Accessibility Offerings」 — Xbox Wire、2024年8月21日。Xbox Adaptive Controllerへの接続、Xbox Controller Assistによる入力の統合を参照。
この文書は、Perplexity、Claude、ChatGPT の3つのAIの支援を受けて著述されたものです。引用画像を除き、MIT License にて提供されています。