Skip to the content.

『ELDEN RING』はなぜ死にゲーをマスマーケットへ運べたのか――難易度を下げず、関所に迂回路を作るオープンワールド設計


はじめに:同じ「死にゲー」が、なぜこの速度で届いたのか

2022年2月25日に発売された『ELDEN RING』は、発売から17日後の2022年3月14日時点で、全世界累計出荷本数1,200万本を突破した。ダウンロード版とSteam版を含む集計である。[1] さらに同年3月31日時点では、販売本数が1,340万本を超えた。発売から約5週間である。[2]

対照として、『DARK SOULS III』は2016年春の発売から約4年後の2020年5月に、全世界累計1,000万本を突破した。こちらもパッケージ出荷とダウンロード販売を合わせた数字である。[3] どちらもフロム・ソフトウェアとバンダイナムコエンターテインメントの共同開発作であり、厳しい敵との試行錯誤を遊びの中心に置くアクションRPGである。

もちろん、販売本数をレベルデザインだけで説明することはできない。複数プラットフォーム展開、宣伝、批評、配信・動画文化、シリーズを通じて築かれた知名度なども初速に関わる。本稿が問うのは、そのなかで『ELDEN RING』が従来の強さを損なわず、初めて触れる人も遊び続けられる形へ何を変えたのかである。答えは、難所を消したことではない。 プレイヤーを止める「関所」の絶対性を、オープンワールドの迂回路で崩したこと にある。

霊馬に乗る褪せ人と、遠方まで広がる『ELDEN RING』のフィールド 画像出典(引用):フロム・ソフトウェア「ELDEN RING 製品情報」 のスクリーンショット。©Bandai Namco Entertainment Inc. / ©2022 FromSoftware, Inc.


1. 死にゲーが越えにくかった壁:ボスが進行を止める構造

ここでいう「死にゲー」は、失敗と再挑戦を通じて敵の攻撃モーション、距離、スタミナや回復の使いどころを学ぶアクションゲームの通称である。死そのものが目的ではない。失敗から次の操作を組み直し、勝てたときに理解と達成感が結び付くことが核である。

『DARK SOULS』シリーズの相互接続型レベルデザインには、大きな長所がある。ショートカットが開いた瞬間に空間の意味が反転し、進めなかった場所が地図の理解によって近くなる。だが主進行に置かれたボスは、次のエリア、次の成長素材、次の装備へ進むための実質的な関所にもなる。探索で多少の準備はできても、最終的にはそのボスを越えなければならない。

『Sekiro: Shadows Die Twice』では、ビルドによる解の幅がさらに狭い。義手忍具やスキルには選択がある一方、攻防の中心は敵のリズムを見切り、弾き、危険攻撃へ対応することに強く集約される。同作は2020年7月時点で累計販売500万本超と、すでに大きな成功を収めていた。[4] しかし、特定の強敵で止まったときに、別の戦い方を探す余地は『ELDEN RING』ほど広くない。

これは「難しいから悪い」という話ではない。一本の緊張感を高密度に保つなら、関所は機能する。問題は、関所がプレイヤーに「勝てるようになるまで、ゲーム全体を遊べない」という二択を突き付けることにある。上達意欲があっても、時間、疲労、操作の得手不得手によって、再挑戦を続けられない人はいる。そこではボス戦からの離脱が、そのまま作品からの離脱になりやすい。


2. オープンワールドは、難所を消さずに「今は行かない」を許可した

『ELDEN RING』は、広大なフィールドと立体的に作り込まれたダンジョンがシームレスにつながるアクションRPGとして公式に説明されている。[5] この構造で重要なのは、広さ自体ではない。最初の大きな進行先であるストームヴィル城を前にしても、プレイヤーは別方向の探索、小ダンジョン、装備や素材の収集、別のボスへ進める。レガシーダンジョン――従来作に近い密度で、立体的な探索と強敵を組み合わせた大規模ダンジョン――を、ただちに攻略する必要がない。

そのため、最初の難所である「接ぎ木のゴドリック」に勝てないとき、選択肢は反復練習だけではなくなる。リムグレイブの洞窟へ入り、別の戦灰を見つけ、武器を強化し、レベルを上げ、別の土地で敵の動きを学んでから戻れる。戻ったときに勝つ保証はない。それでも、失敗の直後にゲーム全体が停止しない。

霊馬トレントも、この設計を移動の手触りまで落とし込む。霊馬は「霊馬の指笛」で召喚でき、移動に使える。倒されても回復アイテムを消費すれば再召喚できる。[6] フィールド上の危険を徒歩で一つずつ突破するだけではなく、距離を取り、地形を見て、目的地を変えられる高速移動手段である。これは単なる時短ではない。苦戦した場所から離れ、別の学びや報酬に到達するための実行可能な逃げ道を作る。

オープンワールド化は、コンテンツ量を増やした判断というより、 進行の失敗を、ゲーム全体の停止へ直結させない判断 だったと読める。ボスを弱くせず、プレイヤーが挑む順序と、戻るタイミングを選べるようにしたのである。

一本道の関所構造と、洞窟探索・戦灰・レベル上げ・別ルート探索を経て接ぎ木のゴドリックへ戻れる迂回路構造の対比


3. 戦灰・遺灰召喚・ビルドは、「易化」ではなく挑み方の選択肢である

迂回路は地理だけに置かれていない。戦灰は、武器に戦技を付け替え、戦技に応じて武器の性質を調整する仕組みである。戦灰の変更には「砥石の小刀」が必要だが、武器を持ち替えずに役割を変える入口になる。[7] 近接武器で受ける、遠距離から削る、出血などの状態異常を狙う、魔術や祈祷へ寄せる、といった組み立てを、探索で得た資源と結び付けられる。

遺灰召喚も同じである。遺灰を使うと霊体を召喚でき、霊体は自動で行動する。霊体のHPが尽きる、ボスを倒す、召喚地点から離れるなどで帰還する。[8] 遺灰は敵を無力化するスイッチではない。プレイヤーへ向く攻撃を分散させ、攻撃する隙を作り、危険な局面に別のターゲットを増やす。結果として、ボスのモーションを一人で全時間受け続ける構図を変える。

ここで「簡単になった」と一語で片付けると、設計上の差を見失う。敵から被弾すれば大きなダメージを受けること、攻撃モーションを観察し、回避・防御・間合いを判断することは残っている。戦灰や遺灰は、その核を削除するのではなく、 同じ難所に対する準備と役割分担の組み方を増やす。一人でローリングを詰める方法も、霊体に注意を引かせて攻撃機会を作る方法も、遠距離手段を整えて距離の優位を作る方法も、ゲーム内で許可された攻略法である。

自由なビルドが効くのは、プレイヤーに万能な答えを渡すからではない。あるボスに合わない手段を使っていると感じたとき、「プレイスキルが足りない」だけを原因にせず、武器、戦技、属性、召喚、レベル、探索先という複数の仮説を試せるからである。敗北の解釈を一つに固定しないことが、再挑戦の入口を増やしている。


4. 数字は、異なる時点と性質を分けて読む

規模の変化は印象だけでなく、時点をそろえずに並べない数字で確認したい。表の販売本数は各発表・資料の時点における累計であり、同一基準の連続調査ではない。

時点 指標 数字 出典の性質
2022年3月14日 『ELDEN RING』全世界累計出荷 1,200万本 両社の共同プレスリリース。パッケージ出荷とダウンロード販売を含む。[1]
2022年3月31日 『ELDEN RING』全世界販売 1,340万本超 バンダイナムコグループのファクトブック掲載値。[2]
2023年2月22日 『ELDEN RING』世界累計出荷 2,000万本超 両社の共同プレスリリース。[9]
2024年2月22日 『ELDEN RING』世界累計出荷 2,300万本超 DLC発売告知の共同プレスリリース。[10]
2025年4月 『ELDEN RING』世界累計出荷・ダウンロード販売 3,000万本超 フロム・ソフトウェア公式発表(ファミ通報道)。[11]

『ELDEN RING』の世界累計出荷本数の推移

DARK SOULS III・Sekiro・Bloodborneの異なる時点における公表下限の比較

累計売上高が約20億ドルに迫ったとする数字も、2026年に民間分析を基に報じられている。[12] ただし、これは販売元による会計開示でも、上表の本数と同じ集計でもない。売上高には価格、地域、値引き、DLCの扱いなどの仮定が入りうるため、販売本数と混ぜず、規模を補助的に見る推計値として扱うべきである。

比較対象も条件をそろえて読む必要がある。『DARK SOULS III』は前述のとおり約4年で1,000万本超である。『Sekiro: Shadows Die Twice』は2020年7月の公式発表で500万本超だった。[4] 『Bloodborne』は2015年9月に200万本超と報じられたが、PS4専用だったため、複数プラットフォームで発売された『ELDEN RING』と単純な横並びにはできない。[13] それでも、同じ開発会社の高難度アクションが、短期間に広い到達を示したという比較の背景にはなる。

Steamに限っても、2022年3月5日の同時接続ピークは95万3,426人だった。これはSteamDBの記録によるプラットフォーム限定の観測値であり、全機種のプレイヤー数ではない。[14] だがPCでの発売直後の参加規模を示す補助線にはなる。SteamDBの全期間ピーク欄に記録されるフロム・ソフトウェア作品中最大の値である。

受賞歴も、市場規模とは別の角度の指標である。The Game Awards 2022で『ELDEN RING』はGame of the Year、Best Game Direction、Best Art Direction、Best Role Playingの4部門を受賞した。[15] ただし、同年に最も多く受賞したのは6部門の『God of War Ragnarök』である。[15] 『ELDEN RING』が「全部門を制覇した」のではなく、4つの部門で選ばれた、と記すのが正確である。

The Game Awards 2022における『ELDEN RING』4部門と『God of War Ragnarök』6部門の受賞カテゴリー対比


5. 難易度を下げたのではなく、難易度が発動する順序を変えた

『ELDEN RING』の設計を「死にゲーを易しくした」と表すと、二つの変化を混同する。

一つは、遭遇した敵との局地的な戦闘難度である。敵の攻撃を受ければ被ダメージが生じ、危険な連撃やタイミングを覚えなければならない。ここで要求される観察、判断、操作の密度は残っている。

もう一つは、局地的な難度へいつ、どの手段で向き合うかという進行難度である。『ELDEN RING』が大きく変えたのは後者だ。勝てないボスの前で、探索、育成、装備、戦灰、遺灰召喚、協力プレイという選択を挟める。ボスは残るが、プレイヤーを止める唯一の扉ではなくなる。

この切り分けは、プランナーにとって重要である。難易度調整を敵HPや被ダメージの上下だけで考えると、厳しさを守るか、間口を広げるかの二択になりやすい。だが停止を生む原因が「勝てないこと」ではなく「勝てるまで他の意味ある行動がないこと」なら、解くべき場所は戦闘パラメータの外にある。


おわりに:間口を広げるとは、関所だけに迂回路を設計すること

『ELDEN RING』の成功を、オープンワールドだから売れた、あるいは遺灰があるから易しくなった、と単一の要素へ還元することはできない。だが、オープンワールド化は明確な構造変更だった。従来作の密度あるボス戦とレガシーダンジョンを残しながら、その手前と周囲に、離れる、探す、育てる、組み替える、戻るための道を置いた。

プランナーが持ち帰るべき教訓は、「間口を広げる」ことを「難易度を下げる」ことと同一視しないことである。まず、プレイヤーを本当に止めている構造的な関所はどこかを観察する。その関所だけに、体験の核を壊さない迂回路を置く。迂回後に戻るとき、プレイヤーは単に弱い敵を倒すのではない。自分で選んだ準備と順序によって、以前は越えられなかった壁へ新しい挑み方を持ち込む。

厳しさを守ることと、続けられることを両立させる設計は、全体を薄めることではない。止まる一点を見つけ、その一点だけを「今は越えなくてもよい壁」に変えることから始まるのである。

References

1. 『ELDEN RING』世界累計出荷本数1,200万本・国内累計出荷本数100万本突破!|FromSoftware - 2022年3月14日時点の世界累計出荷1,200万本と、ダウンロード版・Steam版を含む集計を示す共同発表。

2. Bandai Namco Group Fact Book 2024|Bandai Namco Holdings - 2022年3月31日時点の『ELDEN RING』世界販売1,340万本超を掲載する企業資料。

3. DARK SOULS III Surpasses 10 Million Units in Sales Worldwide|Bandai Namco Entertainment - 2020年5月の『DARK SOULS III』累計1,000万本超の共同発表。

4. Sekiro: Shadows Die Twice Free Update to Bring Gauntlets, Remnants on October 29|Activision - 2020年7月時点で500万本超を配布したとする公式告知。

5. ELDEN RING 製品情報|FromSoftware - 発売日と、広大なフィールドとダンジョンがシームレスにつながるゲーム構造の公式説明。

6. ゲームの基本|ELDEN RING ONLINE MANUAL - 霊馬の召喚と、死亡後の再召喚条件を説明する公式マニュアル。

7. 祝福|ELDEN RING ONLINE MANUAL - 戦灰の変更に砥石の小刀が必要であることを説明する公式マニュアル。

8. アクション2|ELDEN RING ONLINE MANUAL - 遺灰で召喚した霊体の行動と帰還条件を説明する公式マニュアル。

9. 『ELDEN RING』世界累計出荷本数2,000万本突破!|FromSoftware - 2023年2月22日の世界累計出荷2,000万本超の共同発表。

10. 『ELDEN RING SHADOW OF THE ERDTREE』2024年6月21日世界同時発売決定!|バンダイナムコエンターテインメント - 2024年2月22日時点の世界累計出荷2,300万本超を記す共同発表。

11. 『エルデンリング』世界累計出荷本数が3000万本の大台を突破。新作『ナイトレイン』発売を1ヵ月後に控えたタイミングで|ファミ通.com - フロム・ソフトウェア公式X(2025年4月28日)の3,000万本突破報告を伝えるファミ通記事。

12. Elden Ring Revenues Almost $2 Billion|GAMES.GG - 民間の販売分析を基に累計収益を推定する報道。公式会計開示ではない。

13. PS4’s Bloodborne Sells 2 Million|GameSpot - ソニーの東京ゲームショウ発表として、2015年9月の『Bloodborne』200万本超を報じた記事。

14. ELDEN RING Steam Charts|SteamDB - Steam版の2022年3月5日同時接続ピーク95万3,426人を記録する外部データベース。

15. The Game Awards 2022 Winners|The Game Awards - 『ELDEN RING』の4部門と『God of War Ragnarök』の6部門を確認できる公式受賞一覧。


この文書は、Perplexity、Claude、OpenAI Codex の3つのAIの支援を受けて著述されたものです。引用画像を除き、MIT License にて提供されています。