その分類は、誰が分けたのか――『鼻行類』と『Encyclopaedia Eorzea』から架空の分類体系をつくる
架空の草原に、クサハミ、タネネズミ、ハシリキバ、マチブセドリ、エダセキが暮らしている。これまで作ってきた生き物を、一冊の図鑑にまとめよう。目次をどう並べればよいだろうか。
食べ物で分ければ、草を食べるものと獲物を狩るものが別の章に入る。体の形で分ければ、暮らし方が違っても似た姿のものが隣り合う。住む場所で分ければ、川沿いの一章に異なる生き物が集まる。同じ草原でも、目次が伝える関係は変わる。
前回の第6回では、生き物が土地を作り変える働きを考えた。シリーズ「生態学から生き物をつくる」の第7回、最終回では、これまでの見方を逆向きに使う。作った生き物を並べる分類体系そのものを、世界設定にするのである。
判断軸は、 その分類は、誰が、何を基準に分けたものか だ。分類体系は図鑑の目次であると同時に、その世界の学問や文化、政治を語る道具にもなる。
現実の分類学は、生き物どうしの関係を調べる
分類学とは、生き物を整理し、その相互関係を研究する学問である。『デジタル大辞泉』は、形態、つまり体の形や、生理、つまり体の働きなどの関連を挙げる。系統、つまり祖先から枝分かれしてきたつながりも、整理の根拠になる。[1]
『改訂新版 世界大百科事典』の岩槻邦男による解説では、種を基本の単位とし、その上に属・科・目・綱・門などを置く。これらは分類の階級、すなわち集まりの大きさを示す段階である。同じページに掲載された『世界大百科事典(旧版)』の「形態学」の抜粋では、18世紀中葉にリンネが近代的分類学の基礎を固めたと説明される。[1]
次の事例に向けて、種は基本単位、属は近い種をまとめる段階、と押さえよう。綱は属よりも大きなまとまりであり、門はさらに綱をまとめる段階だ。広いほうから書くと、門→綱→目→科→属→種となる。[1]
『百科事典マイペディア』がいう系統分類は、進化上の類縁、つまり祖先を通じた近さを反映する分類体系である。[1] 冒頭の「食べ物で分ける図鑑」は、探す目的に合わせた整理である。系統分類を作るなら、そこからさらに、どの生き物が祖先を共有するかを考えることになる。
本物の方法で、架空の動物群を作る――『鼻行類』
ハラルト・シュテュンプケの『鼻行類――新しく発見された哺乳類の構造と生活』は、架空の動物群を学術書の体裁で扱った本である。原題は Bau und Leben der Rhinogradentia。日本語版は日高敏隆・羽田節子訳で、平凡社ライブラリー版が1999年に刊行されている。[2] それ以前にも、思索社版が1987年、博品社版が1995年に刊行された。[3][4]
Spektrumの『Kompaktlexikon der Biologie』によると、考案者は動物学者のG・シュタイナーであり、H・シュテュンプケは筆名である。用いられたのは比較生物学と系統分類学の方法だ。生き物の特徴を比べ、祖先からのつながりに沿って整理する方法を、架空の動物に適用している。[5]
同辞典は、鼻行類を14科189種からなる動物群として紹介する。無害な果実食のナゾベームから、恐れられる捕食者までを含むという。[5]
Thomas SchneiderによるBIOspektrumの書評では、原著の初版は1957年とされる。舞台には架空の群島があり、そこにいた動物群は意図しない核弾頭の爆発で絶滅した、という設定である。書評は本書を「冗談のモノグラフ」と評する。モノグラフとは、一つの対象を詳しく扱う研究書のことだ。同時に、動物学上の分類の位置づけや、進化生物学の問いにも踏み込んだ本として紹介している。[6]
ここからは設計上の考察である。生き物を一つずつ思いつくことに加え、特徴を比較し、系統を考え、科と種の階層に収める。すると、個々の姿の背後に、それらを調べて整理する仕事が見えてくる。架空の世界に「学問の手触り」を与える方法だ。
「誰が、何を基準に分けたか」に戻れば、この例では、動物学者が現実の学問の方法を使っている。その方法が、架空の動物群を研究対象として成り立たせているのである。
作中の学問として分類を置く――『Encyclopaedia Eorzea』
『Encyclopaedia Eorzea ~The World of FINAL FANTASY XIV~』は、スクウェア・エニックスによるFF14の公式設定資料集である。Vol.Iの第八章「エオルゼア博物誌」には、作中の学問として分類体系が説明されている。[7]
「エオルゼア博物誌入門」の博物学的分類の節によると、この博物学は学術都市シャーレアンで編み出された。対象は生物だけでなく、自律的に動きうる存在にも及ぶ。それらを、命ある存在の衆生門、命なき存在の無情門、生物と非生物の境界にある超常門に分ける。無情門には、死霊やからくり仕掛けも含まれる。[7]
門の下には、綱・属・種が置かれる。複数の綱にまたがる特性を持つ場合には、副綱という補助的な区分を指定することもある。[7]
| 門 | そこに置かれる綱 |
|---|---|
| 衆生門 | 百獣綱、草木綱、百蟲綱、水棲綱、有翼綱、甲鱗綱、六識綱 |
| 無情門 | 機関綱、死屍綱、呪具綱 |
| 超常門 | 妖異綱、妖精綱 |
上表は同節の区分名を整理したものである。[7]
この構成から読み取れるのは、敵として出会う獣も、からくりも、死霊も、一つの学問の目で整理できるということだ。何を研究対象に含めるかという最初の判断に、その世界の自然の捉え方が表れている。
分類したのは、作中のシャーレアンの学問である。大きな区切りの基準には、生命の有無や、その境界がある。現実の階級名を借りながら、その世界で出会う存在に合った体系を作っているのである。

参考文献 [1] と [7] をもとに作成。左右は分類基準の異なる体系であり、生物の対応関係を示すものではない。
分類には、歴史と争いがある
分けきれない存在が、体系の見直しを促す
Vol.Iの同じページには、キメラ生物の発見を扱う節がある。複数の綱や門にまたがる特徴を持つ存在について、分類先をめぐる論争が長く続いてきたと説明される。その後、人為的に複数種を掛け合わせたキメラ生物の存在が明らかになり、学会で分類の抜本的な見直しが議論されている。[7]
同書では、キメラ生物であると明確に分かっている存在を、門の体系とは別枠で紹介している。[7] ここには、分類する側の知識の限界と、新しい発見を受けた対応が描かれている。別枠に置く条件まで決まっている点も、設計の手がかりになる。
新しい区分には、設けた理由がある
Vol.IIの第八章「三大州博物誌」では、機関綱の冒頭に、その区分の来歴が記されている。以前は生物と考えられていた古代兵器群を区別するため、作中の近年に新設された綱なのである。[8]
この説明によって、目次にある一つの名称が、認識の変化を語り始める。かつては生物として捉え、のちに区別するようになった。分類体系に改訂の理由を持たせると、学問が積み重なってきた時間を表せる。
政治が決める境目もある
Vol.IIの第七章の補遺「人と獣人」では、人と獣人の区分が、時代・場所・文化によって変わってきたと説明される。「分け隔てるもの」の節は、この区分を博物学や生物学上の特徴とは切り離して扱っている。[8]
例に挙がるのが、ウルダハの獣人排斥令である。そこで法の対象とされる獣人は、政治的・経済的な理由で定められている。交戦相手や商売敵となりうる人々を指定するという、統治や利害の判断が境目を作っているのだ。[8]
ここで分類する主体は、自然を調べる学者から、法を施行する都市へと移る。基準も、生き物の特徴から政治や経済へ変わる。博物学の分類と社会の呼び分けを併せて描くことで、同じ世界に異なる区切り方が存在することが伝わる。
以上を設計の視点で読むと、分けきれないもの、区分を新設した経緯、学問以外の理由で引かれた境目が、分類を生きた設定にしている。「誰が、何を基準に分けたか」を問えば、論争の当事者や、改訂を必要とした出来事まで考えられる。
ゲームへの置き換え――分ける人と基準を対にする
ここからは、架空の草原を使った設計上の考察である。まず、これまでの各回の見方を、分類に使う基準の候補として並べてみよう。
| これまでの見方 | 分類の基準にするなら |
|---|---|
| 第1回の職業 | 居場所と食べ物から、暮らしの役目でまとめる |
| 第2回の体の形 | 歯、脚、翼など、共通するつくりでまとめる |
| 第3回の食べる関係 | 何を食べ、何に食べられるかでまとめる |
| 第4回の群れと縄張り | 集まり方や、守る場所でまとめる |
| 第5回の警告色と擬態 | 観察できる色や模様でまとめる |
| 第6回の環境を変える働き | 水辺を作るなど、土地に残す変化でまとめる |
どの基準を上位に置くかで、図鑑の見え方は変わる。食べ物を最初の区切りにすれば、捕食者の章の中で、体の形を比べられる。体の形を先に置けば、似た姿の生き物の中で食べ方の違いを見ることになる。
次に、それを分ける人を決める。作中の学者なら、研究したい関係を基準にする。狩人なら、近づく際の危険や対処を重視する。為政者なら、保護や駆除の対象を区切ることもある。 基準と、それを必要とした人を一緒に決める と、区分の名前にも理由が生まれる。
同じ草原を、二通りに分けてみる
以下は、分類体系を試作するための架空の設計例である。食べ物はこれまでの設定を使う。狩人の分類では今回、クサハミとマチブセドリは人への危険が小さく、エダセキはせきを傷つける相手に抵抗する、と仮に決める。
| 分ける人と基準 | 区分 | 入れる生き物 |
|---|---|---|
| 草原の調査者が、主な食べ物で分ける | 植物を食べる | クサハミ、タネネズミ |
| 同上 | 動物を食べる | ハシリキバ、マチブセドリ |
| 同上 | 食性未調査 | エダセキ |
| 狩人が、人の接近時に必要な警戒で分ける | 通常の接近では危険が小さい | クサハミ、マチブセドリ |
| 同上 | 条件を確かめて近づく | タネネズミ、エダセキ |
| 同上 | 獲物として狙われることを警戒する | ハシリキバ |
調査者の図鑑では、タネネズミはクサハミと同じ区分に入る。狩人の図鑑では、群れが一斉に向かってくる危険を考え、接近前に群れの状態を確かめる区分へ移る。エダセキも、せきへの干渉を条件としてそこに入る。
マチブセドリは、タネネズミを狙う捕食者である。それでも、この設計例では人への危険が小さいと決めたので、狩人の図鑑ではクサハミと隣り合う。動物を食べるかどうかと、人が接近したときの危険を別々に定義すると、区切りの違いがはっきりする。
エダセキの食性は、ここまでの設定では決めていない。そこで調査者の図鑑には、食性未調査として残した。枝を運ぶ行動から食べ物を推測して埋める代わりに、観察を待つ区分を設ける。あとで採食の場面を作れば、分類先が決まる発見につなげられる。

保留と、複数の特徴を分けて扱う
分類を保留する理由も決めておきたい。エダセキの食性未調査は、情報が足りないための保留である。一方、観察済みの特徴が複数の区分にまたがるなら、主な所属に補助区分を添える方法が考えられる。作中の副綱は、その発想の手がかりになる。
区分を決めるために、次に何を調べるのか。誰が新しい区分を認めるのか。そこまで置けば、分類の余白が、あとから追加する生き物や物語上の発見を受け止められる。保留に理由があり、改訂にきっかけがあることが大切だ。
分類体系を、世界の見方として点検する
第1回では、生き物の職業を一文にするところから始めた。最終回で加えるのは、それらをまとめる人の視点である。学問の方法で並べる『鼻行類』と、分類する学問や社会の歴史まで描く『Encyclopaedia Eorzea』は、その視点を考える手がかりになる。
設定資料に分類体系を載せる前に、次を確かめたい。
- 分類した人物や組織と、その分類を必要とした目的が決まっているか。
- 最初の大きな区切りに、何を基準として使ったかを一文で説明できるか。
- 区分に入れる条件が明確で、同じ生き物に同じ基準を適用できるか。
- 未調査のものと、複数の区分にまたがるものを、それぞれどう扱うか決めているか。
- 発見による改訂や政治的な境目を置く場合、誰が何を根拠に決めたかが分かるか。
シリーズ全7回では、土地が生き物の職業と体の形を決め(第1・2回)、生き物どうしの食べる関係、群れ、見た目が遊びを作り(第3〜5回)、生き物が土地を変えるところまで考えた(第6回)。最後に、それらを分類で一つの世界にまとめた(第7回)。草原の図鑑を開くと、生き物の姿と、それを理解しようとする人々の姿が見える。その出発点になる問いは、 その分類は、誰が、何を基準に分けたものか である。
References
1. 「分類学」各辞典の解説 — コトバンク、2026年10月14日閲覧。『デジタル大辞泉』、『改訂新版 世界大百科事典』(岩槻邦男)、『百科事典マイペディア』を参照。リンネの時期は、同ページの『世界大百科事典(旧版)』「形態学」の抜粋に基づく。
2. 国立国会図書館「ハラルト・シュテュンプケ『鼻行類:新しく発見された哺乳類の構造と生活』書誌」 — 国立国会図書館サーチ、1999年刊。日高敏隆・羽田節子訳、平凡社ライブラリー。原題と日本語版の書誌のみ参照。
3. 国立国会図書館「ハラルト・シュテュンプケ、ゲロルフ・シュタイナー『鼻行類:新しく発見された哺乳類の構造と生活』書誌」 — 国立国会図書館サーチ、1987年刊。日高敏隆・羽田節子訳、思索社。書誌のみ参照。
4. 国立国会図書館「ハラルト・シュテュンプケ『鼻行類:新しく発見された哺乳類の構造と生活』書誌」 — 国立国会図書館サーチ、1995年刊。日高敏隆・羽田節子訳、博品社。書誌のみ参照。
5. Spektrum Akademischer Verlag「Rhinogradentia」 — 『Kompaktlexikon der Biologie』、2001年。考案者、用いられた方法、科・種の数、食性の範囲についての二次資料として参照。
6. Thomas Schneider「Bau und Leben der Rhinogradentia」 — BIOspektrum 2007年4号、Spektrum.de掲載、2007年7月25日。原著初版年、群島と絶滅の設定、研究書としての体裁と扱う問いについて、書評の記述を参照。『鼻行類』本文の引用は行っていない。
7. スクウェア・エニックス『Encyclopaedia Eorzea ~The World of FINAL FANTASY XIV~』 — スクウェア・エニックス、紙版2016年12月27日発行。Kindle版、第八章「エオルゼア博物誌」内「エオルゼア博物誌入門」の「博物学的分類」「キメラ生物の発見」を参照。リンク先は書誌情報。本文はKindle for Webで閲覧。
8. スクウェア・エニックス『Encyclopaedia Eorzea ~The World of FINAL FANTASY XIV~ Volume II』 — スクウェア・エニックス、紙版2018年11月24日発行。Kindle版、第七章「獣人と蛮神」の補遺「人と獣人」内「分け隔てるもの」、第八章「三大州博物誌」内「機関綱」の冒頭定義を参照。リンク先は書誌情報。本文はKindle for Webで閲覧。
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